HTC LETTER vol.02|NEWSTOPICS・高瀬 圭 教授 研究会レポート

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HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 新たな酸素感知機構を発見 酸素によるビタミンB6活性調節はマクロファージの炎症応答を制御する

虚血などにより引き起こされる急激な低酸素に対する応答の分子機構PHD-HIF制御系は、2019年のノーベル生理・医学賞の対象となったこともあり、広く知られています。その一方で、持続する低酸素を感知する分子機構については未解明のままでした。

東北大学大学院医学系研究科医化学分野・加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の関根弘樹准教授、本橋ほづみ教授の研究グループは、慢性的な低酸素では活性型ビタミンB6 (PLP) が減少し、炎症が悪化すること、そして、PLPの生成に必須の酵素PNPOが慢性低酸素のセンサーとして炎症を制御することをモデルマウスによる実験で解明しました。

これらの分子機構を解明した本研究成果は、慢性的な低酸素状態にあるがん、循環器疾患、呼吸器疾患などに対する診断・予防・治療への応用が期待されます。

本研究成果は、2024年5月31日にNature Metabolism誌に掲載されました。

(2024年6月 3日:大学院医学系研究科医化学分野 教授 本橋ほづみ)

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2.加齢造血幹細胞にそなわる代謝の柔軟性を発見 — ミトコンドリアの機能向上が生き残りに必要 —

造血幹細胞は、生涯にわたって各種の血液細胞を産生する長寿命の細胞です。個体の老化とともに幹細胞自身も老化して血液を産生する能力が低下していく一方で、造血幹細胞の数は増えていくことがわかっています。しかし、機能不全の幹細胞の数がなぜ増えるのかは不明でした。

東北大学大学院医学系研究科幹細胞医学分野と国立国際医療研究センター研究所の研究グループは、京都大学大学院医学系研究科などと共同で、マウスを用いて代謝分子の細胞内での使われ方を明らかにする同位体トレーシングや、高い時間分解能で造血幹細胞の代謝動態を迅速に計測する独自の技術などを組み合わせて、加齢造血幹細胞に特徴的な代謝特性を明らかにしました。

加齢造血幹細胞は、代謝経路の中でも特にミトコンドリアを介した好気呼吸を柔軟に活性化し、厳しい環境に適応できるように変化していました。詳細な解析により、造血幹細胞は加齢に伴いミトコンドリアタンパク質のSDHAF1が増加することによって代謝の柔軟性を獲得していることを解明しました。

本成果は、2024年5月20日付で学術誌Cell Stem Cellに掲載されました。

(2024年5月27日:大学院医学系研究科幹細胞医学分野 教授 田久保圭誉)

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3. 酸化ストレス(注1)で傷ついた細胞を細胞死で効率よく排除する機構を発見 — がん細胞の排除やがんを抑制する新規創薬に繋がる研究成果 —

私たちの体を構成する細胞では、活性酸素(注2) や様々なストレスにさらされ、酸化ストレスが生じます。軽度の酸化ストレス時には、抗酸化応答(注3) を活性化することで細胞の生存を維持します。

一方、重度の酸化ストレス時には、積極的に細胞死を起こし、損傷を受けた細胞を排除することで生体の恒常性を維持していますが、その際、抗酸化応答をOFFにして、効率良く細胞死を引き起こす必要があります。しかしながら、その詳細な機構については、不明な点が多く残されています。

東北大学大学院薬学研究科の平田祐介助教、中田悠靖修士、松沢厚教授らの研究グループは、特に重度の酸化ストレス時に、抗酸化応答に重要な転写因子(注4) Nrf2の活性化が積極的に抑制されることで、細胞死が効率よく起きる仕組みを発見しました。

Nrf2の活性化を担うキナーゼ分子(注5) TAK1は、ユビキチン化酵素(注6) Roquin-2によって酸化ストレス依存的にユビキチン化を受け、分解されます。本機構の破綻は、がんなどの様々な病態の発症・進展への寄与が想定されることから、今回の発見は、がんの病態解明や、がんを抑制する新規創薬の開発に繋がる重要な基礎的知見となります。

本研究の成果は、5月8日に科学誌Free Radical Biology and Medicineにオンライン掲載されました。

(2024年5月23日:大学院薬学研究科 教授 松沢厚)

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第2回 ヘルステック研究会 レポート

第2回のHTC研究会は、東北大学大学院 医学系研究科 放射線診断学分野 高瀬 圭 教授による講義テーマ「画像で病気を診て、針と管で治療する -”放射線診断医”の世界-」です。(以下講義より引用)

はじめに

皆さんは、放射線診断医についてそれほどなじみがないと思いますが、こんなことをしているんだということと、今、我々が力を入れてやっている高血圧を放射線の技術で治すというプロジェクトと知見について紹介させていただきます。

まず自己紹介です。私は栃木県立佐野高校の出身でして、東北大学を卒業して大阪の国立循環器病センターでのカテーテル修行後、石巻赤十字病院で6年ほど勤務し、ドイツ留学を経て、最終的に東北大学で働かせていただいています。

専門分野は放射線診断で画像で診るということと、針と管で治すということ、裏技といたしまして南京玉すだれができるということです(笑)

画像で診断するということはどういうことか

今日は様々な方が受講されているということで、少し基本的なところからお話しさせていただきます。放射線診断医は、3次元に再構成したCTを診るにあたり、解剖の理解が基本となります。

またインターベンショナルラジオロジー(IVR)は血管造影室で針と管での治療をしていますが、例えば腎動脈の狭くなっているところを風船で広げる治療は画像を見ながら行っていまして、放射線診断医の大事な仕事となっています。

治療にはいろいろな医療機器を使います。ステントは、細い管(カテーテル)を通すことで、例えば詰まった左脚の血管を開通させたりするような、血管拡張術を行います。また、腎臓の動脈瘤が破裂すると命にかかわってしまうのですが、これを針と管で詰めることをします。

2ミリくらいの管が入れば、大きな手術をしなくても治せます。未然に動脈瘤の破裂をふせぐことは、脳だけでなく内蔵の動脈瘤でも行っております。

体の中を、手を取るように見る

実際には、3次元で再構成したCTの画像で体の中を診ます。この画像にはルールがありまして、左右が逆になっています。画面の向こう側が頭で、こっち側に足を投げ出している人を下からみたような画像になります。

今のCTですと0.5ミリ刻みで撮影することができます。この画像は、ばんざいしたときの顎のあたりで、ここから下がってくると、この画像は女の人なので乳腺があって、真ん中に心臓から出ている太い血管=大動脈があります。これがぐるっと上に行ってつながって下がってくるので、弓状になっています。

画像を断面で見た際に、どうなっているかというのを頭の中で変換作業できるように訓練するわけです。もうちょっと下にいくと、肺があって、心臓があります。そして心臓の後ろを大動脈が下ってきてます。こういったことを医学部の2年生くらいから教えるんですが、解剖を画像でもわかるようにしていくということです。

お腹の中に入ってくると、肝臓がでてきます。さらに下がるとソラマメみたいな腎臓がでてきます。尿を作る臓器ですよね。この上にちょこんとあるのが副腎という、非常に小さな16gくらいの臓器なんですけれども、血圧に関するいろいろなホルモンを出す大事な臓器になります。こんな風に体の中を手を取るように見ることができます。

真ん中にあるのが背骨になります。カルシウムが入っているので白くて硬そうですよね。さらに下がってくると力強い骨盤が出てきます。これで体重を支えているわけですよね。もう少し下に行くと丸いジョイントが出てきますが、これが我々の脚を動かしている股関節になります。

血管のエレガントなシステム

これらを栄養するために心臓から出てきた血管というのは、効率的に臓器や両脚に血液を運ぶようにできています。実際に3次元にするとより分かりやすいのですが、断面CTを3次元に起こすとこんな風に見えます。医学生は20歳のころに、骨や血管の名前を全部覚えなくてはならないですが、皆さんには概要だけお話しします。

私たちの心臓は真ん中よりちょっと左側にあって、それを守るように肺が両側から接しています。この肺を取ってみると、血管から先ほどの大動脈が全身や脳に酸素を運んでいます。脳から戻ってきた血液は右側の心室に帰ってきて、肺の動脈から肺に行って酸素をまたいっぱいもらってきて戻ってきて全身に血液を運ぶという、非常にエレガントなシステムになってます。それを画像で診ることによって我々は垣間みることができるわけです。

お腹の方の画像もみてみましょう。この二つのソラマメみたいなのは腎臓で、この上に副腎があります。このあたりから両脚に血管がいって、我々の脚にも酸素をたくさん届けているわけです。

放射線診断医とは

我々の体はこんな風になっているんですけれども、放射線科医とはその人の体の中がどうなっているのかを、こうした画像でみることのできる立場だと思ってます。

では、放射線診断医というのは何をしているのでしょうというのを一般の人に聞くと、だいたい「よくわからない」「放射線技師と何が違うのでしょう」「写真を撮る人ですか」など言われます。

我々の仕事というのは、まず、画像診断です。これはCT・MRI・核医学・超音波という高度医療機器で画像で体の中を見て病気の詳しい診断をすること。この中で、診療放射線技師や看護師と協力して診断に適した画像検査を行うところからやっています。

あとはインターベンショナルラジオロジー(IVR)ですね、癌を焼いたり、癌の血管を詰めて治す、細くなった血管を拡げる、あとは外科的に治せない怪我で出血している血管を、体の中から詰めて救命するということもやってます。あとはこれに関係した医学研究、さらに発展させようということをやっています。

医療ドラマとチーム医療

学生にたまに「でも医者ってみんな画像を見られますよね」と言われます。ドラマのかっこいい外科医は、自分で診断するとかなり間違いを犯すという話を、ちょっとだけさせていただきたいと思います。

例えばドラマでの交通事故による外傷で「腹部がすごく張っていて、血圧も下がっている。かなりの出血。すぐに手術の用意を」ということで、患者さんをすぐ手術室に運んでいく傾向があります。これは粗い医療です。

ではドラマに登場するかっこいい外科医は、どうすれば正しい医療となるのか。交通外傷で「腹部が張っててかなりの出血ね」となったとき〇〇〇〇〇医は何と言っているかしらと聞くのが正しい医療なんです。もちろんこれ、放射線診断医なんですね。

そうすると放射線診断医が「骨盤骨折は、手術しないで、血管の中からIVRで詰めて出血を止められます。」「胆嚢からの出血もマイクロカテーテルという0.8ミリの細い管を使って、超選択的に血管を詰めて止血できると思います」「大動脈解離は今手術しなくても周囲への出血はないので、待機的な手術を、患者さんが落ち着いて状態が良くなってきてから心臓外科医にお願いしましょう、今日手術する必要はないですよ」というのを画像で診断するわけです。

ドラマのかっこいい外科医というのは、すぐに手術室に運ぶんではなく、まず放射線診断医に「患者さんを血管造影室に運ぶのでIVRをお願いします」と頼まなければいけない。これこそチーム医療ですね。やっぱりいい医療・失敗しない医療というのは、一人のスターがやるのではなくて、チームでやる。これが名医だと私は思っています。(後略)

YouTube「高血圧チャンネル」

講義にも出てきましたが、血圧に関する様々な情報が満載の「高血圧チャンネル」というYouTubeがあります。 東北大学病院放射線診断科が、高血圧専門医・内分泌代謝科専門医の先生方の協力の下、信頼できる情報をお話しされてます。 また、東北大学が新しい治療法を開発している副腎性高血圧についての情報も届けられています。

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

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