HEALTH TEC LETTER vol.11|NEWSTOPICS・荻島 創一 教授 研究会レポート

東北大学ヘルステックカレッジ > LETTER > HEALTH TEC LETTER vol.11|NEWSTOPICS・荻島 創一 教授 研究会レポート

HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 『メニコン×東北大学 みる未来のための共創研究所』を設置
理想のコンタクトレンズの実現と環境配慮型流通の構築を目指して

国立大学法人東北大学(宮城県仙台市、総長 大野英男、以下 東北大学)と株式会社メニコン(愛知県名古屋市、代表執行役社長 COO 川浦康嗣、以下 メニコン)は、2024年4月、東北大学青葉山キャンパスに『メニコン×東北大学 みる未来のための共創研究所』(以下 共創研究所)(注1)を開設します。 本共創研究所と NanoTerasu をハブとする産学連携による研究活動を推進し、理想のコンタクトレンズと、環境配慮型コンタクトレンズ流通の構築を実現することで、東北大学とともに、メニコンが目指す「新しい“みる”」を創出します。

【共創研究所概要】

名称:「メニコン×東北大学 みる未来のための共創研究所」
運営体制:
運営総括責任者 伊藤恵利
(株式会社メニコン メニコンフューチャーデバイスラボラトリー 所長、東北大学 特任教授)
運営支援責任者 岡部朋永
(東北大学 大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 教授、
 グリーン未来創造機構 グリーンクロステック研究センター センター長)
設置場所:東北大学 青葉山キャンパス ハッチェリースクエア3階
設置期間:2024年4月1日~2027年3月31日

【用語説明】
注1. 共創研究所 東北大学の運用するシステムであり、大学内に企業との連携拠点を設けるとともに、大学の教員・知見・設備等に対する部局横断的なアクセスを可能とすることで、共同研究の企画・推進、人材育成、および大学発ベンチャーとの連携をはじめとする多様な連携活動を促進する制度。 東北大学 産学連携機構 WEBサイト(共創研究所)

(2024年3月 1日:東北大学産学連携機構 産学共創推進部)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2.東北大学・東京大学・メニコン コンタクトレンズの基盤技術に関する共同研究を開始 新しい素材設計と流通資材のリサイクルで、業界に変革を

国立大学法人東北大学(宮城県仙台市、総長 大野英男、以下 東北大学)と国立大学法人東京大学(東京都文京区、総長 藤井輝夫、以下 東京大学)と株式会社メニコン(愛知県名古屋市、代表執行役社長COO 川浦康嗣、以下 メニコン)は、2024年4月に、「次世代コンタクトレンズ及びコンタクトレンズの流通・製造に関する基盤技術構築」に関する共同研究を開始いたします。

東北大学及び東京大学の持つ研究力、メニコンの持つコンタクトレンズに関する技術を融合し、新しいコンタクトレンズ素材の設計及びその流通・製造に使用されるプラスチック資材のリサイクルに関し、業界変革を図る基盤技術の構築を目指します。

(2024年3月 1日:東北大学グリーン未来創造機構・グリーンクロステック研究センター)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

3. 医用画像診断AIに落とし穴 答えは正しくても考え方が正しいとは限らない 臨床応用に向けた課題を明確化

深層学習(注1)などの人工知能(AI)は進歩が著しく、医用画像診断への応用が進められています。しかし、AIが訓練データから何を学んだかなどの詳細はこれまで十分に解明されていませんでした。

東北大学大学院医学系研究科医用画像工学分野の曾昱雯助教らの研究グループは、深層学習が医用画像中のどこに注目して診断したのかを可視化する技術を用いて、その注目領域の医学的な妥当性を詳しく解析しました。先行研究で高性能を達成した深層学習モデルの注目領域と、医師の診断に基づく重要領域を比較した結果、深層学習モデルの高い分類性能に反して、その注目領域の30%~80%は医学的な重要領域と無関係であることがわかり、両者に大きな齟齬があることが明らかになりました。

本研究はAIによる医用画像診断の医学的な妥当性に懸念があることを示しており、今後、新たな訓練法の開発など、さらなる検証と対策を進めることで、より安全性の高いAIの臨床応用が期待されます。

本研究成果は、2024年2月9日付で医学に関する画像分析の専門誌Journal of Imaging Informatics in Medicineに掲載されました。

【用語解説】
注1. 深層学習:人工知能(AI)の一種であり、大量のデータを用いて多層のニューラルネットワークモデルを訓練し、自動的にデータから特徴を学習することができる。

(2024年2月28日:大学院医学系研究科医用画像工学分野教授 本間 経康・助教 曾 昱雯 (ソウ イブン) )

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

第11回 ヘルステック研究会 レポート

第11回のHTC研究会は、東北大学高等研究機構 未来型医療創成センター、東北メディカル・メガバンク機構 医療情報ICT部門 ゲノム医科学情報学分野 荻島創一 教授による講義テーマ「データxAIの未来型医療の情報基盤の実現へ向けて」です。(以下講義より引用)

はじめに

本日は、「データ×AIの未来型医療の情報基盤の実現へ向けて」ということで、お話しさせていただきます。よろしくお願いいたします。

「データ×AI」のデータについては、ゲノムデータの部分が特にフォーカスされています。ゲノムシーケンスによって個人の体質や病状に最適なゲノム医療の研究開発や実装が進み、誰もがこのゲノム医療により裨益するゲノム社会の実現が目前に迫っています。

要するに全国民1億7千万人が全員ゲノム情報をもって、それぞれのゲノム情報あるいは医療情報等を用いた、ゲノム医療の役立つ社会が近づいていると思います。この時にゲノム情報だけでなく医療情報やモバイルヘルスなど合わせて「だれもが人生のどのステージでも、共に暮らし、働き、遊べる」ことで、主体的にいきいきと暮らせる必要があります。

このような社会を実現するために、データとAIを組み合わせた未来型医療の情報源をデザインする必要がある、という認識については皆さんも同じ意識をお持ちになっているのではないでしょうか。

ということで、東北大学での取り組みと国内外での動向をご紹介します。

Genomics to society

ヒトゲノムの解析が終わった2003年、フランシスコリンズ先生(ヒトゲノム解読の計画を指導)が、「A vision for the future of genomics resarch」という論文を出されています。この論文の中にある、ゲノミクスの未来を建物で表現したイラストでは、ヒューマンゲノムプロジェクトというのが土台となっています。

Genomics to viologyについては、ヒトゲノムが分かれば様々な人のバイオロジーがわかるというのは当然であります。今はGenomics to healthがちょうど実現しつつあって、Genomics to societyに向かっている状況かと思います。

このヒトゲノム解読完了が宣言された2003年当時に、今現在のGenomics to societyについて想像していた人は、多分いなかったのではないか。個人がそれだけのデータを持つ時代が近づいています。そこには、縦軸ではELSIやEducationやTrainingなどがあります。またComputational biologyやResourcesといった部分が重要です。本日の話は特にこの部分になるかと思います。

社会のインフラとして誰もがこういったゲノム情報を持つ状態になったとき、すべての人々の健康改善につなげていくのが、大きなミッションかと考えています。

ゲノムプロジェクト:世界の動き

世界中で様々なプログラムが動いています。

有名なのはイギリスの10万人の患者のゲノムでして、難病の診断率が25%、3万人ががん診断になります。ゲノム解析をして何秒後には診断が返ってきます。ここで蓄積されたデータはコンソーシアムという形で、製薬会社や民間企業に利用されています。

このゲノミクスイングランドというビジネスモデルは今、東南アジアでも広がっていて、タイではゲノミクスタイランドというのが始まってます。昨年、日本人類遺伝学会第68回大会が国際学会として開催されましたが、ジェノミクスタイランドを行っているタイの厚労省の方が来日していました。

また、シンガポールではプリサイスというプログラムが動いていますが、こちらもコンソーシアム型のプロジェクトになります。

イギリスはこのように先行した形で進展しています。

また、アメリカはAll of Usとう100万人の住民が参加したゲノムプロジェクトが動いています。アメリカの場合は、多様性=ダイバーシティを強調していて、様々な文化的背景あるいは民族的背景を持った人たちのゲノム情報を調べて国民全体が裨益することに非常に重きを置いています。

北欧のフィンランドではバイオバンク法のような法律があったりするので、社会的に国民の医療情報やゲノム情報を集めてバイオバンク法という法律の下で利活用が進んでいます。(参照:Auria Biobank)イギリスやアメリカは基本、同意ベースで行われています。

オーストラリアも比較的に進んでいまして、国土が広いので、その領土と連携したプログラムというのが含まれていて、様々なプロジェクトが動いています。

日本でのこのような規模のプロジェクトは、日本政府自体が全ゲノム解析と実行計画を今、10万規模で行っています。これはゲノミクスイングランドの日本版という位置づけになるかと思いますが、がんと難病で進められてるところになります。また、15万人の前向きゲノムコホートというのが東北大学メディカルメガバンク計画という形で進展しております。

先ほど紹介した10万人のゲノミクスイングランドですが、イギリスの総人口は6600万人でして、将来的には人口の1割に当たる500万人に拡大することを目指しています。フィンランドが1割でやっているように、大体国民人口の10%のゲノム情報を読むという形になっています。

また、アメリカのAllofUsのプログラムは、スマートフォンを使ったリクルートをして、新しいモバイルヘルス=MMヘルスの手法を使って、100万人の大規模データ形成をすすめています。バイオバンクとして生体資料の保管も行っています。

ゲノムプロジェクト:日本の動き

翻って日本の状況ですが、ゲノム医療はある意味新しい医療であり創薬ということで、国としても経済成長が見込まれる分野として大きな期待をかけている状況です。例えば健康医療戦略推進本部のもとではゲノム医療協議会などが発足、内閣府の健康医療ではある程度司令塔があり、国の成長戦略として国費を投じて育てていくという分野に位置づけられています。

今まで成功しているプロジェクトとしては、AMED事業のプロジェクト「未診断疾患イニシアチブ=IRUD」があります。難病のお子さんは診断がつくまでに時間がかかります。場合によっては診断に5年10年とかかって病気が進行してしまいます。希少疾患の場合、診断自体が難しいという状況にあるため、ゲノム情報を使って診断を付けています。今、遺伝学的な検査で大体43.7%程度の診断になっているということで、これは驚くべき数字だと僕は思います。

また、がんゲノム医療では、がんゲノム情報管理センター=C-CATという機関があります。標準治療が尽きているがん患者さんに対して、特に抗がん剤を選択するにあたり遺伝子検査を行って最適な抗がん剤の選択をすることも行われています。これは国の医療制度の中で保険収載された形で行われていることが特徴で、非常に先進的なプロジェクトだと思います。

このプロジェクトは、まず標準治療がこれ以上ないという患者さんに対して最適な抗がん剤を選択して治療することが第一目標ではありますが、一方でこの治療の中で得られた医療情報・ゲノム情報・遺伝子パネル検査のデータをこのC-CATに集めて、基本的に同意ベースでこのデータを利活用するというのが今進められている状況になります。

かなり詳細な医療情報がこのがんゲノム医療中核拠点病院の協力で得られています。これは拠点病院・連携病院の先生方の手作業の部分が大きいという風に聞いてます。一定程度はカルテからの自動転記がなされていますが、どうしてもカルテに構造化して入っていないような情報に関しては、各拠点病院の先生方が手動入力する形で臨床情報を収集している状況です。(後略)

講義内容

  • 東北大学での取り組み
  • 大規模な前向きゲノムコホートとバイオバンクで挑む個別化医療・個別化予防
  • 地域住民コホート・三世代コホート
  • コホート調査へのリクルート
  • コホート調査の対象疾患
  • コホート調査の健康調査項目
  • コホート参加者の追跡調査
  • 前向きゲノムコホートによるバイオバンクの構築
  • 東北メディカル・メガバンクのゲノム・オミックス解析
  • 住民コホートの全ゲノム解析の重要性
  • 統合データベースによる大規模データ統合
  • データ発見から研究開発まで
  • 統合データベースdbTMMによる精確な層別化
  • 統合データベースのカタログの公開
  • 15万人の住民コホートのバイオバンク
  • 低出生体重児の早期予測モデルの研究
  • 妊娠早期のデータによる早期予測モデルの構築
  • 超高次元データの特徴量選択と不均衡学習
  • 低出生体重児の早期予測モデル
  • 正期産の低出生体重に影響のある母親の環境因子の評価
  • 早産の低出生体重に影響のある母親の遺伝因子の評価
  • 妊婦による低出生体重児のリスクコントール
  • わが国のバイオバンク・ネットワークの構築
  • バイオバンク横断検索システム
  • バイオバンク・ネットワークの試料・情報の検索から利用申請まで
  • ワンストップの利用申請システム
  • Global Alliance for Genomics & Health
  • データ提供、研究開発から成果還元まで
  • ゲノムデータの標準化
  • 臨床データによる表現型の標準化
  • ヒトデータ共有の技術的アプローチ
  • 有体物としてのヒト試料の移転から無体物としてのヒトデータの共有へ
  • 同意取得からデータアクセス審査、データアクセス、研究開発まで
  • データを利用してよいかをいかに標準化するか
  • 同意内容に基づくデータの利用審査の標準化
  • DUOコードピクトグラム
  • 患者の同意方法の標準化
  • GA4GH Passportによるデータアクセス
  • Executing Portable Workflows
  • Genomics in healthcare
  • ゲノム医療の実現に向けた ゲノム・医療情報の標準化
  • ISO/TC215/SC1 Genomics Informatics
  • HL7 Clinical Genomics WG
  • 2030年のゲノム医療
  • ゲノム医療を加速させるために
  • ゲノム情報による健康の改善
  • ゲノム情報x AIのゲノム社会のあり方

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

PARTICIPATION
参加方法