HEALTH TEC LETTER vol.10|NEWSTOPICS・能勢 隆 准教授 研究会レポート

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HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 「眼」と「脳」から交通事故ゼロ社会を目指す 東北大学×富谷市×仙台放送×あいおいニッセイ同和損保 「眼の機能」と「運転技能」の関係性を実証する新たなプロジェクト開始

国立大学法人東北大学大学院医学系研究科(研究科長:石井直人、以下「東北大学」)、宮城県富谷市(市長:若生裕俊、以下「富谷市」)、株式会社仙台放送(社長:稲木甲二、以下「仙台放送」)、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(社長:新納啓介、以下「あいおいニッセイ同和損保」)は、2024年3 月より東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科学分野 中澤徹教授の率いるCOI-NEXT「VISION TO CONNECT」拠点のもとで、「眼」の健康状態とクルマの「運転技能」の関係性を実証する運びとなりました。

2024 年3 月1日からの1か月間、富谷市の職員100名を対象に、①あいおいニッセイ同和損保のテレマティクスサービス(注1)により運転中の挙動を測位するとともに、②東北大学と仙台放送が共同開発した「運転技能向上トレーニング・アプリBTOC(ビートック)」による脳のトレーニングを実施します。さらに、③東北大学の医師が実施した眼科検診を基に、「運転技能」「脳のトレーニング」「眼の健康状態」の相関を明らかにするとともに、交通事故リスクを軽減するために必要な対策や指標を考察します。

脳のトレーニングにより運転技能が向上することは、東北大学と仙台放送の共同研究によりすでに実証されていますが、眼の疾患も交通事故の要因となることが指摘されており、この度4者の力を結集した取り組みを開始することとしました。

【用語解説】
注1. テレマティクス:Telecommunication(通信)とInformatics(情報科学)を組み合わせた造語で、自動車などの移動体と通信システムを組み合わせ、ドライバーの運転状況等の情報をフィードバックするサービスをいいます。

(2024年2月26日:東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室/東北大学病院広報室)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2. 「超硫黄分子」の寿命延長効果を発見 ~新たなサプリメントや健康法の開発に期待~

奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の西村 明 助教(兼・研究推進機構)、研究推進機構の髙木博史 特任教授、東北大学大学院医学系研究科の赤池孝章 教授らの共同研究グループは、「超硫黄分子(注1)」が、酵母の寿命を制御していることを発見しました。

今回、明らかになった酵母に対する寿命の制御機構は、ヒトを含む高等生物に広く保存されていると予想されることから、超硫黄分子の利用が老化予防や健康寿命の延長などに貢献すると期待されます。

本研究成果は、2024年1月3日付けで国際学術誌Redox Biologyに掲載されました。

【用語解説】
(注1)超硫黄分子(supersulfides):ポリスルフィド構造を分子内に有する硫黄代謝物の総称。硫黄原子が直鎖状に複数連結(カテネーション)したポリスルフィド構造により、求核性と親電子性を兼ね備え、多彩な生物活性を示す。

(2024年1月19日:大学院医学系研究科環境医学分野 教授 赤池孝章)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

3. 医療データ利活用センター設置のお知らせ 新薬・治療法・AIシステムなどの研究開発を促進

東北大学病院は、医療データ利活用センター(MDUC:センター長 藤井進) を2024年2月1日に設置しました。当センターは医療分野の研究開発に資するために、医療データの利活用を推進します。

医療データとは、患者さんの検査や病名、処方などのカルテ情報など、個々人の健康や医療に関する情報を指します。医療データの利活用とは、医療データを安心安全に使うために匿名化や集約(統計処理)などの加工を行い、医学医療の進歩やそれを通じて国民の健康の向上に役立てることを指します。

主に取り扱う医療データは、次世代医療基盤法(注1)に基づいて、当院が保有する医療情報(注2)です。当院は国による厳正な審査で認定された「認定匿名加工医療情報作成事業者(注3)」(認定事業者)と2023年1月31日に契約を締結し、2023年3月1日より、次世代医療基盤法に基づく患者さんへの通知を開始しており、既に8万人を超す患者さんのご協力を得ています。

今後もこれまで通り通知を受け取った患者さんで停止を申し出た以外の医療情報は、認定事業者により個人がわからないよう加工されたのち、医療ビッグデータとして大学や企業等の研究機関に提供され、新しい薬や治療法、医療AIシステムの開発などに役立てられます。また新たに施行予定の「仮名加工医療情報(注4)」なども迅速に対応していく予定です。

また東北大学病院では2023年3月23日に「東北大学病院における仮名加工情報の取扱いに関する内規」を制定し、個人情報保護法(注5)に規定される仮名加工情報を運用できる体制を整備しており、当センターがその加工管理を担います。

これらデータは企業との製品開発を目的にした研究にも活用することができ、従来のデータの第三者提供における「学術利用における例外」では利活用が難しかった研究にも活用できることから、これまで以上にデータの利活用が促進されることが期待されています。これらデータならびに提供の体制が整った研究機関は本邦において数少ない先進的な事例と言えます。

患者さん一人一人が自らの匿名加工医療情報や仮名加工情報の提供に参加することで医療ビッグデータが形成、利活用されることとなり、医療分野の研究成果につながります。そして近い将来、”明日の医療”が国民・患者に提供され、また未来の子どもたちを含め医療の進歩という全体の恩恵に結び付くことが期待されています。当センターはそれを安心安全に積極的に進めて参ります。

【用語解説】
注1. Giタンパク質三量体:Gタンパク質三量体はαβγの3つのサブユニットから構成されている。中でもGαサブユニットは複数(i, s, q, 12/13)の種類が存在しており、Gαサブユニットの種類によって細胞内で起こる反応が異なる。Gαiサブユニットはアデニル酸シクラーゼを抑制することで細胞内のセカンドメッセンジャーであるcAMPの濃度を低下させる。
注2. クライオ電子顕微鏡単粒子解析:タンパク質の立体構造を明らかにする手法の一つ。生体分子をマイナス180 ºC近い極低温状態の氷の中に包埋し、その状態で電子顕微鏡により観測する。観測した生体分子の粒子像を大量に撮影し、得られた数十万の粒子像から3次元に再構成することで立体構造を明らかにする手法のこと。
注3. 顔面紅潮(がんめんこうちょう):様々な要因により顔の血管が拡張し、顔面が赤くなる症状を示す。
注4. 仮名加工医療情報:法令に定める措置を講じて他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する医療情報。名前やIDをはじめとした個人の識別につながる情報は削除されている。
注5. 個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律):個人情報を取り扱う事業者及び行政機関等における円滑な運営、個人情報の適正かつ効果的な活用、個人の権利利益の保護に配慮し、個人情報の適正な取扱いに関して定められた法律。平成15年5月施行。

(2024年2月 5日:東北大学病院広報室)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

第10回 ヘルステック研究会 レポート

第10回のHTC研究会は、東北大学 大学院工学研究科 通信工学専攻、株式会社ユニシー 代表取締役社長、能勢 隆 准教授による講義テーマ「深層学習に基づくクローンボイス生成技術」です。(以下講義より引用)

自己紹介

はじめに自己紹介をさせていただきます。私は現在、東北大学 大学院工学研究科 通信工学専攻というところに所属しております。
通信ということで、光通信などを想像される方もいるかと思いますが、我々はヒューマンコミュニケーション、スピーチコミュニケーションという、音声通信や音声コミュニケーションを主に扱っております。

博士の学位を東京工業大学で取ってから助教をしておりました。10年くらい前に東北大学に講師として移りまして、現在准教授をやっております。

研究を始めた背景

専門は、講義の後の方でも触れますが、もともとは音声合成です。研究を始めた動機は非常にシンプルで、名探偵コナンというアニメがありますが、その中に出てくる蝶ネクタイ型変声機という声を変える機械を学生の頃に作りたいと思ったからです。未来の装置としてそんな機械があったらすごいし、アイドルや声優さんの声が自分で出せたら面白いだろうなというのがきっかけで、音声という道に踏み込んでおります。

ただそれだけの理由でずっと研究を続けることは難しいので、その元となっているのが、今回ご紹介するような音声クローン技術、一般的に言うと音声合成になります。最近でいうと、生成AIというのが非常に広まってきてますが、その中の音声生成AIなどもバックグラウンドになっています。そこからボイスチェンジャーであったり、感情を扱うことが研究のベースになっていたのでその感情を合成したり、推定したり、それを使った音声対応などを研究しております。

皆さん、ヘルステックカレッジということで、健康に関連した講義が多いかと思います。私の研究はヘルスケアと直接的に結びつくわけではありませんが、関連しているところもありますので、そういう観点でご紹介させていただければと思います。

中には難しい理論なども出てきますがあまり気にせず、デモで出てくる音声がどうビジネスや社会実装に関係していくのかなど、ご紹介していければと思っております。

音声生成AIについて

まず、我々の分野ですと、先ほど申し上げた生成AI、ジェネラティブアーティフィシャルインテリジェンスがここ数年、非常にブレイクしております。生成AIというと、ChatGPTという言語を扱うものだったり、ALL・Eという画像を作り出すというようなイメージが強いかと思います。

このマルチメディアやマルチモーダルの中には言語・画像・音声がありますが、我々がやっているのは音声になります。この音声は、最後のパーツだという人もいて、そう認識されている企業の方もおられるかと思います。

音声の場合、知名度はあまりないかもしれませんが、Amazon PollyやGoogle、Azureというったプラットフォームがありますが、その中ではTTSというものが提供されます。Microsoftのような巨大IT企業が音声合成や音声認識を提供するような世の中になってきています。

今の時点で、音声を単に作って情報伝達する、例えば工場で案内や指示を出す際に音声を使いたいという場合、美声である必要はないと思うんです。こういう音声は昔からあって、音声合成というのは脈々と技術が開発されて、達成されています。

今後、特にヘルスケアや教育、医療というところで必要な音声とは、例えばある人にそっくりな声とか、様々な感情を出せる声などが非常に重要になってくるのではないかと考えています。

今から3人の女性の声を出します。どちらかがAIでどちらかが人間になりますので、これを聞き分けていただきたいと思います。(音声当てクイズをはさみます)

これは我々の技術になりますが、最先端では人間とAIでほとんど聞き訳ができないような技術が出てきています。(後略)

今日の内容

  • 自己紹介
  • 音声合成について
  • 統計的音声合成によるクローンボイス生成
  • 統計的音声合成の自動化
  • 統計的音声合成の多様化
  • 統計的音声合成のためのコーパス設計
  • 統計的音声合成の応用
  • まとめ

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

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参加方法