HEALTH TEC LETTER vol.8|NEWSTOPICS・檜森 紀子 准教授 研究会レポート

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HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 糖尿病網膜症の発見・評価に簡便なアプローチ ―非侵襲的な爪床毛細血管測定が有効であることを発見―

DR(注1)は、失明原因の第3位で年間数千人が失明しており、糖尿病患者にとって深刻な視機能障害をきたす合併症となる可能性があります。しかしDRは複雑な分子メカニズムにより引き起こされており、特異的なバイオマーカーがないため、DRの早期発見は一般的には難しいのが現状です。

東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤 徹(なかざわ とおる)教授、國方 彦志(くにかた ひろし)特命教授、岡部 達(おかべ たつ)医師らのグループは、あっと株式会社(代表取締役 武野 團 [たけの だん] )が開発した毛細血管スコープによるシンプルかつ非侵襲的な方法を用いて、NC(注2)の非侵襲的な測定がDRの発見や重症度評価に有効であることを明らかにしました。

今回の研究により、DRのリスクとその重症度を評価・予測する新しい道が開かれ、将来的には糖尿病患者の視覚損失の予防に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2023年10月24日Graefes Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology誌に掲載されました。

【用語解説】
注1. DR: Diabetic Retinopathy 糖尿病網膜症
注2. NC: Nailfold Capillaries 爪床毛細血管

(2023年10月26日:大学院医学系研究科 眼科学分野 教授 中澤 徹)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2. 食品成分スルフォラファンによる糖尿病増悪因子の制御 ―糖尿病を予防する新たな戦略開発に期待―

必須微量元素であるセレン(注1)の輸送タンパク質である セレノプロテインP(注2) は、通常時は体にとって必要なタンパク質ですが、糖尿病患者では体内で増加し、病態を悪化させることが分かっています。そのため、患者の健康を保つためには、セレノプロテインPを減らしすぎず増やしすぎずバランスを取ることが重要です。

東北大学大学院薬学研究科の叶 心瑩氏、外山喬士講師、斎藤芳郎教授らの研究グループは、ブロッコリースプラウトに豊富に含まれる食品成分であるスルフォラファン (SFN) (注3) が、 セレノプロテインPの生成を抑制することを、培養肝細胞およびマウス投与モデルで明らかにしました。

今後、SePの抑制剤開発等に寄与することで、糖尿病をはじめとした生活習慣病を予防・治療する新たな戦略の開発が期待されます。

この研究成果は、2023年10月19日に生物学分野の専門誌Communications Biologyにオンライン掲載されました。

【用語解説】
注1. セレン:必須微量元素の一つであり、生体内ではタンパク質に含まれる。セレンを含むタンパク質の中には、活性酸素を還元・無毒化し、活性酸素から生体を守る抗酸化作用を示すものが知られる。一方で、セレンは反応性の高い元素で、毒性も高いことも知られている。
注2. セレノプロテインP(SeP):必須微量元素セレンを含むタンパク質で、主に肝臓で合成され、血液中に分泌される。分泌されたSePは、各臓器にセレンを運ぶ役割を果たす。これまで、糖尿病患者においてSePが増加し、増加したSeP(過剰SeP)がインスリンの効果を弱めること(インスリン抵抗性)や、インスリンの分泌を抑制し、糖尿病態を悪化することが知られている。
注3. スルフォラファンSFN:アブラナ科植物、特にブロッコリースプラウトに多く含まれる成分で、活性酸素を除去する抗酸化作用や糖尿病予防効果が知られる。サプリメントも開発されている。

(2023年11月7日:東北大学大学院薬学研究科 教授 斎藤芳郎)

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3. 妊娠期に糖質が欠乏すると胎仔マウスの生殖細胞に異常が出る 生殖細胞形成における糖質代謝の役割

妊娠期の栄養状態が、生まれた子の健康に影響することが知られていますが、胎児期に起こる生殖細胞の形成にどのように影響するかは分かっていません。

東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センター 松居靖久(まついやすひさ)教授、林陽平(はやしようへい)助教の研究グループは、滋賀医科大学と共同で、培養下で多能性幹細胞から生殖細胞を誘導する系を用いて糖質(グルコース)の重要性を調べました。その結果、生殖細胞の形成においては、グルコースが特定の代謝経路を介してタンパク質の糖 鎖修飾の基質として働くことが重要であることを突き止めました。

また妊娠マウスに糖質を含まない給餌を行うと、胎仔のタンパク質の糖鎖修飾が抑制され、生殖細胞形成と分化が阻害されることを明らかにしました。これらの結果は、妊娠期の糖質欠乏が、子の生殖機能に影響を与える可能性を示唆するものです。

本研究成果は10月16日、生命科学の専門誌 EMBO Reports誌電子版に掲載されました。

(2023年10月17日:加齢医学研究所附属医用細胞資源センター 教授  松居靖久)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

第8回 ヘルステック研究会 レポート

第8回のHTC研究会は、東北大学大学院医工学研究科 生体再生医工学 視覚抗加齢医工学分野、東北大学大学院医学系研究科 神経感覚器病態学講座・眼科学分野、檜森 紀子 准教授による 『緑内障早期発見・治療介入による健康長寿』です。(以下講義より引用)

東北大学眼科学教室

私が所属している眼科学教室は、着任12年目の中澤教授のもとに緑内障神経保護を専門にしている教室となっています。今年の秋に行われた緑内障学会では、多くの局員が学会発表をさせていただきました。また、今年4月に新入局員が9名入ってくれまして、若い医師の入局で非常に活発となり、和やかに局運営が進んでいる状況です。

酸化ストレス

はじめに酸化ストレスについてお話しさせていただきたいと思います。私は大学院の時に「緑内障と酸化ストレス」というテーマで動物実験をしてました。当時は国際学会でポスター発表などやってました。大学院を出たときに、中澤教授から臨床研究で酸化ストレスをテーマにやってよ、と言われまして、臨床の論文も発表しています。

今日は、その内容をお話しさせてもらい、酸化ストレスの話、基礎研究と臨床研究の話、最近すすめている睡眠時無呼吸と緑内障の話、最後にうちの薬局が熱心に活動している緑内障啓発活動の試みについてお話しさせていただきたいと思っています。

日本における視覚を取り巻く状況

日本の高齢化は非常に進んでおり、緑内障は日本の視覚障害原因疾患の第1位となっています。また、60歳以上で緑内障の有病率が急激に上昇しています。

日本における緑内障の割合ですが、正常眼圧緑内障が約7割となっています。眼圧を下降しても2割の患者は進行してしまい、有効な治療法がないため進行してしまう状況です。

緑内障病態に関わる障害因子ですが、酸化ストレスや自律神経・ミトコンドリア障害・加齢・家族歴等、複数の眼圧非依存性因子が関与しています。今日は簡単に酸化ストレスについてのお話しをしたいと思います。

活性酸素

空気中の酸素を人は体内に取り入れて、酸化によって得たエネルギーを利用して生命を維持しているのですが、酸素によって作られた、より活性の高いものを活性酸素(フリーラジカル)といいます。これが遺伝子を損傷しますとDNA障害、脂肪を損傷しますと生体膜障害を起こし、いろいろな毒性を示すと考えられています。

健康な状態では、活性酸素と抗酸化力のバランスは取れていますが、加齢や肥満、寝不足等の過剰な酸化ストレスで活性酸素の比重が多くなりますと、抗酸化力が弱くなり、血管病変、神経障害、腎臓病等の疾患の病態と深く関わってきます。緑内障も酸化ストレスが悪化の一因と考えられています。緑内障以外の眼疾患、例えば白内障や糖尿病網膜症、ブドウ膜炎でも酸化ストレスは関連があると言われています。

緑内障と酸化ストレスについて基礎研究や臨床研究でも、緑内障の病態に酸化ストレスの関与を示唆する報告は多いです。

私たちの外来では酸化ストレスマーカーといたしまして、酸化ストレスをd-ROMで、抗酸化力をBAPで、フリーラジカル解析装置を使って計測しています。

今日の内容

  • 日本における視覚を取り巻く状況
  • 緑内障と酸化ストレス
  • 抗酸化治療への挑戦 ~基礎研究~
  • 抗酸化治療への挑戦 ~臨床研究~
  • 睡眠時無呼吸と緑内障
  • 緑内障啓発活動の試み

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

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