HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。
東北大学 ヘルステックTOPICS
1. 水流を観測データから深層強化学習(注1,2,3)で再現 目前の水流の遠隔地への伝送や水を使うVR体験の新たな可能性
従来の流体シミュレーションは、様々な物理特性を仮定して流体の動きを全て計算していましたが、実際の一部の液体の動きを観測できたとしても、それを利用して液体全体の動きを計算して再現する手法はありませんでした。
東北大学 電気通信研究所と流体科学研究所のグループは、実観測データを利用できる新しい流体シミュレーションの方法を開発しました。深層強化学習で、少数の限られた観測データをもとに液体全体の動きをリアルタイムで計算して再現することができます。これにより、目前の実際の水の動きを、たとえそれに人がランダムにかき混ぜる等の外乱を与えた場合でも、バーチャル空間内で正確にリアルタイムに再現し、防災(治水)や建設工事などのために離れた場所での直感的なデータ共有できたりするようになります。
なお、液体の動きのリアルタイム計測には、電気通信研究所で2020年に開発した「磁気式3次元モーションキャプチャの新方式」(注4)を利用しました。
本研究成果は、9月17日に米国計算機学会(ACM:Association for Computing Machinery)の科学誌 ACM Transactions on Graphicsのオンライン速報版に掲載され、コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術のトップコンファレンス SIGGRAPH Asia 2023(12月12日~15日,オーストラリア・シドニー)で口頭発表されました。
【用語解説】
注1. 深層強化学習 (Deep reinforcement learning): 強化学習(注2)と深層学習(注3)を組み合わせた学習手法です。
注2. 強化学習 (Reinforcement learning): 人工知能(AI)で利用される機械学習の一種。コンピュータ上のエージェントに繰り返しデータを与え、試行錯誤のやりとりを重ねることによって、タスクを実行できるようになる手法です。エージェントは、タスクの報酬を最大化するように学習します。
注3. 深層学習 (Deep learning) : 人工知能(AI)で利用される機械学習の一種。人の脳の神経回路を模した人工のニューラルネットワークを使用して、データからパターンや特長を学習することで、認識等のタスクを自動化します。ニューラルネットワークを多層で使用することで、データの複雑な特徴やパターンを階層的に学習することができます。
注4. 「3次元モーションキャプチャの新方式を開発 人やモノの動きを連続して滑らかに、しかも正確に計ることが可能に」東北大学プレスリリース(2020年11月6日)
(2023年9月20日:電気通信研究所 教授 北村 喜文)
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2. 加齢に関連する脳疾患を鑑別可能な新しい血中バイオマーカーを発見 -採血だけで予測可能な疾患リスク検査の精度を向上-
世界中で高齢化人口が増加しており、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)など、加齢に関連する脳疾患が増加しています。これらの疾患の早期治療介入と発症前予防を行うためには、バイオ―マーカーによる予測や診断が非常に重要です。微量採血で済む血液バイオマーカーの利用は、脳脊髄液の採取による患者の負担や放射線被曝をともなうPET検査に比べて安全、簡便であり、コストパフォーマンスが高いという利点があります。
東北大学大学院薬学研究科の川畑 伊知郎特任准教授、福永 浩司名誉教授、仙台西多賀病院の武田 篤院長、大泉 英樹医師らによる研究グループは、脂肪酸結合タンパク質(FABPs)(注1)がレビー小体病のバイオマーカーとして機能する可能性を調査しました。AD、PD、DLB、軽度認知障害(MCI)の患者と健康な対照群で血液中のFABPsレベルを測定した結果、FABPsがレビー小体病の潜在的な新たなバイオマーカーとして機能し、早期の疾患検出と他の加齢に関連する脳疾患との識別に役立つ可能性があることを示しました。
この研究成果により、アルツハイマー病やレビー小体型認知症等の認知症やパーキンソン病を発症前に予測することが可能となり、早期治療介入による発症前の根本治療が期待されます。
本研究成果は、2023年8月26日にInternational Journal of Molecular Sciencesに掲載されました。
【用語解説】
注1. 脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid-Binding Proteins, FABPs):細胞内で脂肪酸の輸送と貯蔵に重要な役割を果たすタンパク質です。レビー小体病の原因タンパク質の細胞内取込や凝集、毒性発現に関与します。
(2023年9月25日:大学院薬学研究科 薬理学分野 特任准教授 川畑伊知郎)
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3. 東北大学病院広報誌『hesso』が「2023年度グッドデザイン賞」を受賞
東北大学病院の広報誌『hesso(へっそ)』がこの度2023年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しました。10年以上にわたり広報誌を通じて、品質の高いコミュニケーション活動を続けていることが高く評価されました。
東北大学病院 広報誌『hesso』
hessoは人のからだを中心に、いまの医療を中心に、すべての人にわかりやすく医療や健康を伝える病院広報誌です。高齢化や医療ニーズの多様化の中で、一人ひとりの価値観によりそう医療の実現には、地域のみんなで医療や健康を考え、支えていく必要があります。hessoを中心に人の輪ができる、”おへそ”のような存在を目指して発行しています。
発行から10年目を迎えた2023年には、発行頻度を年4回から6回に増やし、医療への関心を高めるためのコミュニケーションの機会を増やしました。
また、10月よりhessoのWEBサイトを開設いたしました。広報誌の在庫状況、取り寄せ方法のほか、バックナンバーなどもご覧いただけます。ぜひご覧ください。
詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)
第7回 ヘルステック研究会 レポート
第7回のHTC研究会は、 東北大学大学院農学研究科 副研究科長 食品機能分析学、仲川 清隆 教授による 『脂質酸化情報の精緻化から創造する食品の未来品質・ヒトの健康社会』です。(以下講義より引用)
講義タイトル「脂質酸化情報の精緻化から創造する食品の未来品質・ヒトの健康社会」は、少し難しく感じるかもしれませんが、簡単に言うと酸化についての話になります。
東北大学について
東北大学の紹介はすでにあったかと思いますが、本学は昨年度115周年を迎えています。写真に写っている青葉山は理系学部が集結しています。農学部は地下鉄ができてからこのキャンパスに移って5-6年超、経ったところです。仙台駅から地下鉄で5分くらいの立地で、企業の皆さん寄っていただいています。よろしければ皆さんも足を運んでいただけたらと思います。
ナノテラスについて
写真にある丸い施設はナノテラスで、これは大きな顕微鏡みたいなものです。大型放射光施設はスプリングエイトが有名かと思いますが、ナノテラスでは、もう少し柔らかいものがナノ構造で見られる施設になっています。本日はナノ構造で見た食品についてもご紹介したく思います。
農学研究科は、ナノテラスから一番近い研究科になります。私はナノテラスを使った共同研究の産学官担当もしてますので、ご興味があればご連絡いただきたいと思います。
農学部について
続いて農学部の紹介です。1947年にできた農学部は、昨年度に75周年を迎えました。キャンパスが青葉山に移ってからの心配事があるとすれば、クマやカモシカの出没でしょうか。教授会でクマが出たときの対応についてディスカッションすることもある状況でございます。
農学部に入ると1年生はその成績に応じて6コースのうちから1つを選択します。生物化学と生命科学はいわゆる実験をする科学コースであり、その他、植物生命化学・動物生命化学、海洋生物化学や、文系的な農業経済学もあります。
本日は医学系の先生もいらっしゃるかと思いますが、日本が独特だと思うことは、栄養学という学問が農学部に属していることです。私、留学先はボストンの大学だったんですが、アメリカで栄養学は医学部の領域になります。私がいるところは生命科学という領域になるのですが、これは旧:食糧化学と呼ばれてまして食品系栄養系の化学を学ぶというところになっています。
1年生にもクイズなど出題して、この領域を好きになってもらおうとしてますが、今日は酸化についてどのような研究をしているか、みなさんに見て頂こうと思います。
生活習慣と寿命
こちらの図は、生活習慣と寿命についての順位表になりまして、なかなか一位が当たらないというクイズになっています。出典としましては「大病をしない免疫体質を作る本」に書かれている内容です。
データがあっているかどうかというよりも、いろいろ考えてもらいたいという趣旨になっています。
この表では、ガンにかかると980日くらい、心臓病だと2,100日くらい寿命が縮むかもしれませんと書かれています。1位の因子では、寿命が縮む日数が3,500日でおよそ10年くらい、2位で2,250日となります。今回は1位と2位をあてていただこうと思います。
第2位は喫煙(男性)になります。第1位はストレスに関係することかもしれません。大体ご意見出そろいましたが正解はないですね。この本では、1位は「独身(男性)」と書かれています。
1位2位に「男性」と書かれているのは、男性がストレスに弱いということもあるかもしれません。自殺を含むという背景も考えると、こういう順位になるのでしょう。人生楽しんで生きられたら等、いろいろ思うところであります。
C.C.レモン
次もクイズになります。食品系の研究をしていますので、基礎研究だけでなく研究開発の楽しさも伝えられたらと思います。
こちらの写真はサントリーさんのC.C.レモンで、ビタミンCはアスコルビン酸という名前で合っていますし、化学構造も合っていますが、私はこの写真を見て一ヶ所「いずい(仙台弁で「しっくりこない」)」と思うところがあります。科学者として、すごく気に入らないところがありますが、それはどこでしょうという問題です。
そうです、色が気に入らないのです。なぜかと言いますと、ビタミンC自体は無色ですが、こちらは黄色なのが引っ掛かります。
これに関して、有名な話があります。昔、ビタミンCを作られた会社さんが透明で売り出したところ、全然売れなかった。しかし、とある会社さんでレモンの色である黄色を着色したところ結構売れて、以来それが定着しているという話です。
ネガティブに捉えないでいただきたいのですが、この黄色の色は決して天然の色ではないのでそういった面では矛盾を抱えている部分もあるかもしれません。天然を感じさせながら黄色にして売ることの重要性や黄色にしないと売れにくい状況などにも、研究開発の面白さがあるかと思います。
次の問題は、C.C.レモンのCに取り消し線が入っているdeleteCの写真になります。サントリーさんは何を意図してCを消したと思いますか?という問題です。
これは、Cをcancer(癌)のイメージで消していらっしゃいます。delete Cは、癌を消すというイメージで使っていらっしゃいます。ビタミンCがガンに効くかどうかはさておき、食品表示は法律や規制があり、昨今は特定保健用食品や機能性表示というものがはやって飽和状態かと思います。
消費者も商品購買選択に迷われるでしょうし、業界でも表示の限界について感じてらっしゃるかと思います。こういった表示もひとつの作戦としてありかと思います。このような表記が、暗黙に意味を感じるのは、今後ストラテジーの一つになるかと思います。
基礎研究だけでなく食品の開発だったり、表示やグリップも含めた容器なども実際酸化にすごく関わったりするので、全部ひっくるめて食品や栄養の研究だろうと私たちは捉えています。
講義内容
- 質量分析装置について
- 油の酸化について
- 脂質過酸化は生体老化や食品劣化に大きく関与する
- 加齢と老化の違い
- 食用油脂の酸化制御技術についての共同研究講座
- 目の酸化ストレスについて
- 食べた酸化脂質の行きつく先は?
- 水分活性と脂質酸化の関係
- 食品と栄養学が目指すところ
東京栄養サミット2021
2021年12月に東京で栄養に関するサミットが開かれ、各国の首相がその国の栄養と食品の指針を伝えています。私たちもその指針をこのサミットで発表しています。
日本栄養学学術連合は、我が国のメジャーな栄養・食品に関する15学会が集まった、大きな連合体です。この連合体で日本としての声明をこのサミットにおいて出しています。
知っていただきたいのは、貧栄養と過栄養をゼロにしていきたいという我が国の方針と、日本食のメリットを出していきたいということです。
また、日本食のデメリットである塩分摂取量の多さは明確な課題です。アメリカの友達が「ラーメンは健康食でしょ」という誤解など、是正していきたいと私たちは考えています。
(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)