HTC LETTER vol.10|郭 媛元 准教授 研究会レポート・NEWSTOPICS

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HTCレターでは、開催したヘルステック研究会と東北大学のヘルステックにまつわるトピックスについてお届けします。

第10回 ヘルステック研究会 レポート

第10回ヘルステック研究会は、東北大学学際科学フロンティア研究所、東北大学大学院医工学研究科 バイオファイバー医工学分野 准教授 郭 媛元 先生による「多機能ファイバ技術が拓く未来のヘルステック ー医療・ヘルスケア分野への新たな挑戦ー」です。

郭先生の研究室では、光や電気、化学といった多様な機能を、細くて柔らかい1本の「糸(ファイバ)」の中に統合する技術を開発しています。これまでの医療用デバイスは金属やシリコンを主素材としており、生体や脳の組織に対して硬すぎるという課題がありました。本講演では、その課題を克服し、生体に優しく適合しながら精密な生体情報の取得を可能にする最新の研究成果と、医療・ヘルスケア分野における今後の展望について解説されました。

金太郎飴の原理を応用した製造技術と生体内センサー

多機能ファイバは、「金太郎飴」と同様の原理で製造される点が特徴です。太い筒状の母材(プリフォーム)の中に様々な機能を持つ部品をあらかじめ配置し、熱を加えながら細く引き伸ばすことで、内部構造を保ったまま1本の細い糸に成形します。郭先生らは卓上サイズの小型製造装置を独自に開発し、この技術を進展させてきました。

このファイバを脳内の計測に応用することで、従来の電気信号だけでなく、ドーパミンなどの化学物質、さらには複数のイオンや温度、pHに至るまで、1本の糸で同時に計測することが可能となります。生体への負担を抑えつつ、自然な状態で生体内環境をモニタリングできる次世代のセンサーとして期待されています。

診断と治療を両立する次世代医療デバイス

ファイバ技術は、血管などを通じて体内を検査する「カテーテル」にも応用されています。例えば、熱によって形状が変化する金属をファイバ内に組み込み、電気を流して先端を自在に曲げられるカテーテルが開発されました。これにより、体内のホルモン濃度のリアルタイム計測などが、より低侵襲かつスムーズに実施できるようになります。

さらに、ファイバの先端から局所的に「低温大気圧プラズマ」を発生させ、がん細胞などの病変部をピンポイントで攻撃する治療デバイスの研究も報告されました。検査による「診断」と、そのまま患部を処置する「治療」を同時に実現し得る新たな医療機器として注目されています。

柔軟性の向上と衣服を通じた日常への展開

デバイスを体内に適用する際の「硬さ」という課題を解決するため、全体をポリウレタンなどの柔らかい高分子素材で構成する研究も進められています。電気を流すと伸び縮みし、波打つ動きやらせん状の変形を可能にする「ソフトファイバ」が開発されました。

また、この柔軟なファイバを日常的に着用する「衣服(テキスタイル)」に織り込む応用研究も始まっています。衣服を通じて汗の成分を継続的に計測したり、ファイバ内に形成した極小コイルから磁場を発生させ、体外から非侵襲的に神経活動を制御したりするなど、実用化に向けた検証が進んでいます。これにより、日常生活の中で自然に健康管理や治療をサポートする技術としての応用が見込まれます。

生体分析を支える極小の流路と今後の展望

ファイバの内部に微細な「管(流路)」を形成し、その中で微量の液体を精密に制御する技術も紹介されました。この技術を応用し、製造過程でファイバを回転させて内部の流路をねじった構造にすることで、少量の液体でも効率よく混ざり合う「マイクロミキサー」が開発されました。これにより、ごくわずかな生体試料でも迅速かつ正確に分析することが可能となり、新たな医療検査技術の確立に繋がると考えられています。講演の結びには、体内埋め込み型機器やウェアラブルデバイスの実用化を見据え、今後も医療機関や企業と連携しながら多機能ファイバの社会実装を推進していく方針が示されました。先進的な技術による医療の未来への展望が共有され、研究会は盛況のうちに終了しました。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 「孤立しやすさ」の背景に迫る― 日本人6万人の解析から社会的孤立に関わる遺伝的背景を東アジアで初めて解明 ―

図1. 本研究の概要図

人とのつながりは、家庭や職場、地域といった社会的な環境の中で形づくられるものと考えられてきました。しかし同じ地域や職場にいても、家族や友人とのつながりの広がり方には個人差がみられます。その背景にどのような要因が関連しているのかを検討するため、日本の一般住民6万人以上を対象に、遺伝情報を用いた大規模な解析を行いました。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構分子疫学分野の栗山進一教授らの研究グループは、家族や友人との実際のやり取りの頻度や人数を質問票で数値化し、その情報と数百万か所に及ぶ遺伝情報を統計的に照らし合わせるゲノムワイド関連解析を行うことで、社会的孤立との関連を網羅的に探索しました。

その結果、社会的孤立と関連する遺伝的特徴が見いだされ、脳や神経の働きと関係することが知られている遺伝子の関与が示唆されました。一方で、社会的孤立にみられる個人差の大部分は遺伝以外の要因によって説明できることもわかりました。遺伝の寄与の度合いは小さいものの環境要因だけでなく、生物学的な個人差の関与があることが明らかとなりました。「孤立しやすさ」の理解の促進が期待されます。

本研究成果は、2026年2月17日付で医学誌Translational Psychiatryに掲載されました。

(2026年3月 2日:東北大学東北メディカル・メガバンク機構 分子疫学分野 教授 栗山進一)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2. 同じ食事内容でも吸収されるエネルギーは異なる? ~食事や健康状態で変わる「消化可能エネルギー」の最新レビュー~

これまでの体重管理は、主にエネルギー摂取量と消費量のバランスで議論されてきましたが、摂取したエネルギーのうち、実際にどれだけが消化・吸収されて利用されるかについてのエビデンスは、体系的に整理されていませんでした。今回、過去50年分のヒトを対象とした研究を系統的にレビューしたことで、食事量や食事内容、加齢、疾患が消化可能エネルギー摂取量(DEI)1及び代謝可能エネルギー摂取量(MEI)2に影響することを明らかにしました。本研究は、食品表示のエネルギーと実際に体内で利用されるエネルギーとの差を理解する基盤となり、肥満や低栄養、高齢者のフレイル対策など、幅広い体重管理・栄養戦略の科学的根拠を強化する成果となります。

【論文情報】
論文タイトル: Digestible and Metabolizable Energy Intake in Humans: A Systematic Review.
著者: Eiichi Yoshimura*, Naoya Oi, Kanon Abe, and Yuki Nishida* (* 責任著者)
掲載雑誌: Advance in Nutrition
DOI: 10.1016/j.advnut.2026.100597

(2026年3月 2日:大学院医学系研究科運動学分野 講師 西田優紀)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

3.暑さで1日の水の代謝回転はどう変わる? -高齢者の水代謝を二重標識水法で解明-

ヘルステック研究会にもご登壇された、山田先生のプレスリリースです。

近年、気候変動の影響で猛暑日が増加しています。特に高齢者は暑さに弱く、適切な水分補給が重要です。しかし、暑い環境において自由に生活を送る場合、体内の水がどの程度代謝されているのかは十分に分かっていませんでした。

東北大学大学院医工学研究科の山田陽介教授、医学系研究科の金鉉基准教授らの研究グループは、京都府亀岡市に住む65歳以上の高齢者26人を対象とし、春(平均19℃)と夏(平均29℃、最高35℃)で体内の水の代謝を比較しました。その結果、夏には体内の水の代謝回転量が1日あたり約640mL増加することが明らかになりました。一方で身体活動やエネルギー消費量は平均的に減少していましたが、夏の身体活動が維持されている人ほど水の代謝回転も増えることがみられました。本成果は、暑熱環境下における高齢者の水分管理の重要性を示すものです。

本研究成果は、2026年2月19日に科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

(2026年3月13日:東北大学大学院医工学研究科スポーツ健康科学分野 教授 山田陽介)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

PARTICIPATION
         参加方法|現在は1回限定コースのみとなります