講義テーマ:多機能ファイバ技術が拓く未来のヘルステック ー医療・ヘルスケア分野への新たな挑戦ー
現代社会において、ストレス関連疾患の増加や生活習慣病の早期発見・予防には、生体内外の多様な信号を同時に計測する技術が不可欠です。本研究では、「金太郎飴」の製法に類似した熱延伸技術を活用し、光・電気・化学・機械・磁気などの機能を統合した多機能ファイバの開発を進めています。これにより、健康状態の高精度なモニタリングを実現し、個別化医療や予防医療の新たな展開を促進します。
2025年度の東北大学ヘルステックカレッジ 第10回ヘルステック研究会にご登壇いただく、東北大学学際科学フロンティア研究所 東北大学大学院医工学研究科 バイオファイバー医工学分野 准教授 郭 媛元(グオ・ユアンユアン)先生にお話しを伺いました。

研究者になる転機
中国電子科技大学電子工学を専攻していた3年生の時に訪日し、東北大学へ留学したことが研究人生の転機となりました。留学中に教わった東北大学の先生の指導に感銘を受け、そこで初めて研究の面白さに触れることができました。「いつかは東北大学で研究したい」と強く思ったのを覚えています。
中国の大学を卒業後、東北大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程を修了し、同年、MIT やバージニア工科大学での留学・共同研究を経て、同大学院医工学研究科医工学専攻博士課程を修了しました。もともと工学科で半導体バイオセンサーの研究を専門としていましたが、留学中に生命現象を解析するための先端的なファイバ技術と出会いました。
竹由来のファイバ技術の可能性に魅了され、次第にその技術を医療や脳科学などの生命科学へ応用したいと考えるようになり、帰国後は東北大学大学院生命科学研究科で応用研究を行いました。その後、自身の原点である工学に立ち返り、装置開発や技術基盤の自立化に取り組んでいます。現在は研究室で独自にファイバ開発を進め、医療機器や多機能センサーへの応用を目指しています。
多機能ファイバの可能性
例えば、ウェアラブル分野への応用として、多機能ファイバを活用した新しい繊維素材の開発を実現しました。素材を肌に触れる衣服に織り込むことにより、汗に含まれるコルチゾールやナトリウムなどの「ストレスマーカー」を検出・測定できます。着用者の生体情報を常にセンシングできるウェアラブルデバイスに期待が持てます。
また、カテーテルへの応用が挙げられます。通常、治療や検査に使われているカテーテルは、ひとつの機能しか持ちません。治療や生体検査で広く活用される医療用カテーテルは、主に血管や気管支のような微細な管状組織に対して使用するために、細長い棒状をしています。しかし、様々な機能性を付与したい場合、一層ずつに機能を集積化する製造方法がとられるために、多機能化すればするほど線径が太くなってしまいます。
そこで、「金太郎飴」の作製方法と類似した熱延伸プロセスを参考に、必要とする構造と機能を設定した成型物を加熱しながら引き延ばすことで、構造と機能を維持したままより細くスケールダウンし、人毛のように細いファイバを作製することに成功しました。さらに、ファイバ内部に形状記憶合金ワイヤを導入したことで、屈曲運動するアクチュエータ機能、神経伝達物質を検出する電気化学センシング機能を持ち合わせた多機能性カテーテルを作製することに成功しました。
このカテーテルを、血管や気管支に適用することを想定し、血管の分岐構造をモデルとした実験系でセンサ機能のテストをしたところ、微小流路の内部であっても生体分子の高感度の濃度測定が可能であることが確かめられました。 このように、数百ミクロンほどの細さのファイバにも多様な機能を集積できる技術を見出したことで、アクチュエータ、化学センシング、微小流路、光路やカメラ機能などを一括して集積化した実用性の高い新たな多機能性カテーテルの開発が進むことが期待されます。健康状態の高精度なモニタリングを実現し、個別化医療や予防医療の新たな展開を促進します。
本講義では、多機能ファイバ技術が拓く未来の医療、ヘルスケア分野のヒントを皆様にご紹介いたします。
ご紹介は以上になります。
2022年には、郭先生が独自に開発された多機能ファイバーが、脳活動を計測・操作する画期的な技術として高く評価され「Innovators Under 35 Japan (35歳未満のイノベーター)」の1人に選ばれています。郭 媛元:「毛髪並み」極細ファイバーで脳科学研究を変える(「MITテクノロジーレビュー[日本版]」より)
また、東北大学サイト特設ページ「TOHOKU UNIVERSITY The Romance of Research」にも先生の紹介ページがあります。
TOHOKU UNIVERSITY The Romance of Research「ファイバーで脳の謎を解き明かす」
世界各地で研究経験を積んでこられた郭先生がご登壇される第10回ヘルステック研究会にご関心をお持ちの方は、以下ボタンのリンク先フォームよりお申し込みください。
