講義テーマ:動物の生き生きとした振る舞いを創り出す制御のからくりを探る
生物は、進化という壮大な試行錯誤の場を通して優れた能力を獲得してきました。これらの背後には、未だわれわれが知り得ぬからくりが内在しているに違いありません。本講義では、「制御」という視座から動物が示す生き生きとした振る舞いを生み出すからくりを考えてみたいと思います。そのために、身近な動物であるイヌやウマなどの四脚動物が示す巧みな足さばき(脚間協調現象)に着目したわれわれの研究を紹介します。本講義を通して、生き物ならではの制御のありように興味を持っていただければ幸いです。2025年度の東北大学ヘルステックカレッジ 第8回ヘルステック研究会にご登壇いただく、東北大学電気通信研究所 教授 石黒 章夫 先生にお話しを伺いました。

ユーモア溢れる研究に贈られる第18回「イグ・ノーベル賞」を授賞
粘菌も餌にありつくための最短距離を見つける能力を持つことを確かめた日本人研究者の一人として、イグ・ノーベル賞の「認知科学」分野を受賞しました。
粘菌を入り口と出口だけに餌がある迷路に置くと、いったんアメーバのように迷路いっぱいに広がった粘菌が、餌のない場所からは撤退し、餌のあるところだけを最短距離で結ぶ太い管状になることを確かめたのです。
神経系を持たない単純な生物である粘菌が“迷路問題”を解くことを確かめた研究成果が授賞対象になりました。
予測不能的に変動する生物の動き
生き物は有限の計算資源しか持たないにもかかわらず、実世界の複雑な環境で高度な運動を自然に行います。当研究室では、自律分散制御という概念を基盤として、このように優れたリジリアンスを持つ生物の設計原理の解明を通して、従来の人工物に比べて著しい環境適応性や耐故障性を有する人工物の設計・開発に関する研究を進めています。
具体的には、動物の動きに着目し、その動きを生み出す「制御の仕組み(メカニズム)」を数学モデルとロボットで再現する研究を行っています。四足動物の歩行リズム、ムカデの多数の足の協調、蛇型ロボットの動き、足が何本失われても動くロボットなどがあります。生物の複雑な動きは、実は「荷重がかかっている足は動かさず、抜重したら前に振り出す」といった非常にシンプルな原理(数式)で説明できることが分かりました。
実用化のイメージ
この数理モデルは、絶滅動物の運動推定にも応用可能で、首長竜がどのように泳いでいたのかという古生物学の長年の謎にも新しい仮説を与えています。AIのブラックボックス的学習とは異なる「からくり(原理解明)」に基づくロボット制御は価値の高まりを感じられます。
実用化イメージとして、大自由度システムの制御や、実世界環境下で適応的に行動するロボットの開発などに関わる社会実装への応用が期待されます。
ご紹介は以上になります。
2025年度ヘルステック研究会は、各回のお申し込みも可能です。石黒先生がご登壇される第8回ヘルステック研究会への参加ご希望の方は、以下ボタンのリンク先フォームより申し込みください。
