11月20日開催!第7回ヘルステック研究会は、香取 幸夫 教授による『「きこえ」を良くして楽しい生活を』です。

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講義テーマ:「きこえ」を良くして楽しい生活を
高齢社会の到来により、日本では2千万人以上の方にWHOの基準に該当する難聴があると予想される。その多くは中高年の加齢性難聴であり、近年認知症やうつ病との関係が示唆されている。しかしながら難聴を自覚しない方が多く、また主たる治療法である補聴器が諸外国に比べて適切に使用されず、普及していない。中高年の方に難聴の自覚を促し、「きこえ」をよくして楽しく生活することを勧めていきたい。

2025年度の東北大学ヘルステックカレッジ 第7回ヘルステック研究会にご登壇いただく、東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 教授 香取幸夫先生にお話しを伺いました。

耳鼻咽喉科医の広い守備範囲

私が東北大学医学系研究科の臨床実習のとき、患者さんを初診から手術、術後経過まで通して診療することが出来る外科系診療科に魅力を感じ、難聴や音声障害などコミュニケーション障害に対してメスをもって治せる耳鼻咽喉科を選びました。

音は、外耳から中耳まで空気の振動として伝わってきて、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」という、かたつむりのような螺旋状をした器官へ入ります。 このとき、音を感受するのが蝸牛内部にある「有毛細胞」という細胞です。大学では蝸牛や有毛細胞の研究を行い、その後、臨床で喉の機能(発声・呼吸・嚥下)を専門としながら、耳領域の研究を継続しています。

その間、イギリスのキール大学への研究留学、山形市立病院済生館や東北公済病院、岩手県立宮古病院などで勤務しました。大学病院では耳・鼻・喉・頭頸部が分野ごとに分かれていますが、地方病院では幅広く診療することが求められ、これまでの研究や経験が必要とされました。耳鼻咽喉科に35年以上携わっていますが、その守備範囲は年々広くなっており、現在では頭蓋底から鎖骨の高さまで、眼球と歯牙を除いて担当する大きな診療科となっています。

難聴がもたらす社会的課題

高齢社会の到来により、日本では2千万人以上の方にWHOの基準に該当する難聴があると予想されています。難聴は家族との会話や社会的交流の妨げとなり、孤立やうつの原因にもなります。急に声が大きくなったり会話の齟齬が増えたりすることで、家族関係も影響を受けやすくなります。そのため、難聴対策は医療的な問題にとどまらず、社会的な課題でもあるのです。

加齢による聴力低下は、急激に悪化する場合は自覚されやすいのですが、軽度難聴というものは徐々に進行していくため、本人には自覚しにくく、家族も気づきにくいと言われています。WHO(世界保健機関)の調査によると、65歳で約30%、75歳で約70%の人に何らかの難聴があるとされています。

残念ながら確実な予防法は確立していませんが、酸化ストレスを減らす生活習慣や、騒音を避けることは有効とされています。特に若い世代は聴覚が騒音に弱く、日常的にイヤホンで大音量再生を聞いている人も少なくありません。こうした習慣の影響で、10年後・20年後の壮年期から難聴が問題になっている可能性があり、「加齢性難聴の若年化」が憂慮されています。WHOでも週当たりの安全な音量時間を啓発しており、ノイズキャンセル機能や適切な音量習慣が推奨されます。

難聴と認知症の関係

従来は、難聴とうつ病の関連が注目されていましたが、近年は認知症との結びつきがより重視されるようになりました。難聴は認知症リスク要因の約8%を占め、糖尿病や高血圧など他の要因よりも高い影響があると言われています。

認知症のリスク要因の中で、対策が可能なものとして最も影響が大きいのが難聴です。もし難聴が世界からなくなれば、認知症患者は8%減少するとされています。つまり、難聴を予防することは、認知症の発症を未然に防ぐことに直結するのです。

また、すでに耳の聞こえが悪いという人にとっても、補聴器などを用いて対策を施せば、認知症を予防したり、進行を遅らせたりすることができる可能性があります。近年、脳への聴覚刺激による入力を保つことは認知症予防に有効と考えられており、軽度の段階から補聴器を使用すれば、認知症予防に有効であることも研究で示されています。

補聴器の課題と技術革新

日本では、補聴器をつけることに抵抗のある人が多いです。それが原因で、世界的にみて難聴対策がかなり遅れています。日本人は「聞こえにくい」と思っていても、補聴器使用率が2割未満と低く、欧米の5割前後に比べ遅れているといわれています。背景には費用、補助制度の不足、啓発不足、そして使用時の満足度の低さが考えられます。

かつて補聴器は「老いの象徴」であったかもしれません。しかし、現在市場に出回っている補聴器は、聴力検査機能が搭載されていたり、ワイヤレスイヤホンのようにデザイン性が優れていたりと、昔とは様相が違っています。スマートフォンと連動させ、アプリを使って環境に応じた音量調節ができたり、マイク付きのワイヤレスイヤホンと同様に通話できたりします。若年層が自然に使えるデバイスを補聴器として活用できるようになれば、これからの普及は進むと期待されます。

受講者のみなさまへ

補聴器に限らず、近年は首掛け型スピーカーや骨伝導・軟骨伝導デバイスなど、多様な製品も登場しており、アクティブシニア層が抵抗なく利用できる環境が整いつつあります。若い世代がイヤホン感覚で使える補聴機能付きデバイスが広がれば、将来の難聴対策に大きく貢献するとも思います。

多少の聞こえにくさは、生活にあまり支障をきたさないと軽視されがちですが、認知症や社会的孤立のリスクを考えると対策は極めて重要になります。自分も家族も周りの人も、いつかは耳が遠くなる可能性を持っているからこそ、「きこえ」の仕組みから難聴に関する知識を学んでいただき、「きこえ」をよくして楽しく生活することを一緒に考えてみましょう。


ご紹介は以上になります。

2025年度ヘルステック研究会は、各回のお申し込みも可能です。香取先生がご登壇される第7回ヘルステック研究会への参加ご希望の方は、以下ボタンのリンク先フォームより申し込みください。