10月16日開催!第6回ヘルステック研究会は、神﨑 展 教授による「細胞の中のタンパク質の仕事をリアルタイムでみてみよう!」です。

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講義テーマ:細胞の中のタンパク質の仕事をリアルタイムでみてみよう!
生命活動に不可欠な多数の分子(要素)が明らかになってきましたが、それらが細胞内でどのように協調しながら働いているのかについては、未解明な点が数多く残されています。 神﨑研究室では、蛍光や発光を用いた生細胞イメージング技術を駆使することにより、小胞輸送系や多数の分子群からなる「超」分子複合体の時空間的な制御機構(生体ナノシステム)を可視化して解析することで、「生命活動の仕組み」を理解しようとしています。

2025年度の東北大学ヘルステックカレッジ 第6回ヘルステック研究会にご登壇いただく、東北大学大学院医工学研究科 病態ナノシステム医工学分野 教授 神﨑 展先生にお話しを伺いました。

研究と歩み

新潟大学農学部で動物に関する研究を行った後、群馬大学大学院 医学系研究科を経て、当時の内分泌研究所(現・生体調節研究所)で博士課程に進学し、医学・病気に関連する研究へと方向を広げました。大学院生の頃、ちょうど分子生物学が急速に発展した時期だったため、クローニングや遺伝子解析に携わった経験が現在の研究の礎となっています。

博士課程修了後、アメリカにおよそ6年間留学し、インスリン作用や糖尿病関連の研究に従事しました。帰国後は、東北大学先進医工学研究機構の立ち上げと同時に、研究者として独立し、以後20年近く仙台で研究生活を続けています。

分子研究からナノシステム研究へ

研究当初は、新規遺伝子の発見や分子の機能解析が主流でしたが、次第に「分子機能を個別に解析するだけでは、生命の仕組みを理解できない」と考えるようになり、多数の分子同士が複合的に働く「生体ナノシステム」に着目しました。特にインスリンの作用機序、糖尿病やインスリン抵抗性の病態解明を大きなテーマとしています。

中心的な研究対象は「グルコーストランスポーター(GLUT4)」になります。GLUT4はインスリン刺激により細胞内から細胞膜へ移動し、血液中のブドウ糖を細胞に取り込む役割を担います。これは血糖値を下げるインスリン作用として最重要の仕組みですが、その詳細な動態は長く未解明でした。

研究室では、蛍光タンパク質(GFP)や量子ドットと呼ばれるナノ材料を応用し、GLUT4の1分子レベルでの挙動を「生きた細胞内で可視化・定量化」する技術を確立することに成功しました。これにより、インスリン作用が正常な場合と、糖尿病など病態で不全が生じる場合の違いを分子動態レベルで理解できるようになったのです。

病態理解と基礎研究の重要性

この技術を用いれば、インスリンが効かない状態で、どの過程が障害となっているのかを明らかにすることができます。創薬研究にもつながりますが、まずは、「すぐに利益を生む応用よりも、病態の仕組みを理解することが最も重要」という考えを重視して、基礎研究を通じて病気の理解と治療の両立を目指しています。研究室の名称に「病態ナノシステム」とあるのもその理念の表れであり、病気を切り口として正常な生理機能のからくりを解明するアプローチを続けています。

運動効果と基盤研究

GLUT4は脂肪細胞と骨格筋に多く存在します。骨格筋では、インスリンだけでなく「運動刺激」によっても膜移行が起こります。運動習慣が糖尿病改善や寿命延長だけでなく、認知症予防にもつながることは疫学的に証明されており、その分子基盤を研究することは重要課題でもあります。

研究室では、培養筋肉細胞を電気刺激で収縮させる独自のモデルを開発しました。これにより「運動効果」を細胞レベルで再現できるようになりました。さらに、患者由来の筋衛星細胞を用いて、筋疾患や糖尿病における異常を解析する研究も進めています。

活発な収縮能力を獲得させるために、工学部の研究者と協力し、伸縮性や導電性を持つ新規バイオマテリアルを用いた培養環境を開発しました。これにより、一般的に収縮能が貧弱な培養ヒト筋細胞でも生理的に近い収縮運動を再現可能とし、基礎研究だけでなく、ヒト筋疾患の病理解明や、医療デバイス開発や再生医療の基盤研究にもつながっています。

研究哲学と展望

研究姿勢は一貫して「革新的技術を駆使して生命現象と疾患の原理に迫る」ことにあります。単一分子レベルの解析から出発し、現在は複数の分子群が織りなす複雑な相互作用、すなわち生体ナノシステムを研究対象として、糖尿病や筋疾患といった加齢性疾患の病態解明に取り組んでいます。

さらに、運動効果の分子システム的理解を目指す研究は、糖尿病治療や健康寿命の延伸に直結する重要なテーマです。そのため、工学との融合研究も積極的に推進し、生命科学の成果を社会へと還元する道を切り拓いていきたいと考えています。


ご紹介は以上になります。

2025年度ヘルステック研究会は、各回のお申し込みも可能です。神﨑先生がご登壇される第6回ヘルステック研究会への参加ご希望の方は、以下ボタンのリンク先フォームより申し込みください。