9月25日開催!第5回ヘルステック研究会は、浅野善英 教授による「病態記憶から考える皮膚疾患の治療戦略」です。

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講義テーマ:病態記憶から考える皮膚疾患の治療戦略
従来、炎症性疾患の病態形成において中心的役割を果たす細胞は免疫担当細胞と考えられてきました。一方、近年のsingle-cell RNA sequencingをはじめとした研究技術の進歩により、臓器横断的かつ疾患横断的に病態を維持する役割を担う線維芽細胞の存在が注目されています。線維芽細胞は解剖学的位置により形質が異なり、疾患の好発部位を規定する因子としても注目されています。本講義では線維芽細胞依存性の病態記憶に着目し、今後の皮膚疾患の治療戦略について概説します。

2025年度 東北大学ヘルステックカレッジ 第5回ヘルステック研究会にご登壇いただく、東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 皮膚科学分野 教授の浅野 善英先生にお話しを伺いました。

未知の領域「皮膚科」

東京大学医学部医学科を卒業後、東京大学病院を経て、現在は東北大学で皮膚科の診療・教育・研究に携わっています。

皮膚科医として約25年間にわたり臨床と研究に携わってきたわけですが、皮膚科を志した理由は、学生時代に未知の領域に魅了されたこと、そして基礎研究が遅れていた分野だからこそ、医師として挑戦しがいがあったという探求心によるものでした。

皮膚科は、どちらかというと皮膚病を診る診療科というよりは、皮疹が出る疾患を全部診る診療科になります。患者さんは、最初に皮膚の変化で「何かおかしい」と気づくことが多く、皮膚科が軸となっていろいろな診療科とタッグを組んで診療することが求められます。

皮膚科の病気は、アトピー性皮膚炎、かぶれ、蕁麻疹、やけど、痛風など、よく聞く症状から細かいものも入れると約5,000種はあると言われていて、未だに見たこともない病気もたくさんあります。それだけに、未知の領域「皮膚科」は、とても研究し甲斐があると思います。

「強皮症オンライン相談 in 東北」の開設

「強皮症オンライン相談」は、診療科を問わず強皮症の研究者が集まる強皮症研究会議という組織の社会活動の一環として、1999年に開設されたシステムです。患者さんの病気への理解を深めることによって、強皮症への不安を少しでも軽くすることが目的であり、2009年から2021年まで13年間、東京大学皮膚科の「強皮症オンライン相談」を担当し、約3,000件の質問に回答してきました。

2022年2月、東北大学皮膚科への異動に伴い、引き続き強皮症患者さんの力になりたいと考え、「強皮症オンライン相談 in 東北」を新たに開設しました。相談内容は全国から寄せられ、特に人口の多い都市部からのアクセスが多く見られます。

オンラインでの対応は、診断ではなく助言に留まります。近年、オンライン診断のビジネス化もよく聞きますが、本相談は、あくまで正しい医療への橋渡しとしての役割を重視しています。医療の本質を重んじ、専門性の高さと信頼性から、多くの患者さんに支持されていると日々実感しています。

教育者としての使命

一方で、教育者としての立場も強く持っています。皮膚科医として一人前になるには、診療を通しての訓練が40歳くらいまで、その後、指導的立場としての経験を10年くらい積むことが大事だと思います。実際、何百、何千という診療を経験したことが、部下への指導にも活きているケースが沢山あります。

そのため、現在では、教育・育成を第一に考え、自らが研究に没頭しすぎず、若い医師たちの指導にも重きを置いています。皮膚症状が内臓疾患の兆候であることも多く、皮膚科医の総合的な視野と経験の必要性を伝えています。

適切な研修や臨床経験なしに開業することのリスクや、医師としての専門性の低下を危惧しており、美容医療が「楽に稼げる」職場として若手医師を引きつけている一方で、教育が不十分なまま現場に出されることで、医師としての将来性を失う例も少なくないと感じています。

そのため、教育・育成を第一に考え、自らが研究に没頭しすぎず、若い医師たちの指導にも重きを置いています。皮膚症状が内臓疾患の兆候であることも多く、皮膚科医の総合的な視野と経験の必要性を伝えています。

今後の研究と企業連携の展望

研究面では、AIとの親和性が高い皮膚科領域において、画像診断や重症度評価、波動制御技術を用いた皮膚疾患の非薬物療法に関する共同研究など、多くのプロジェクトが進行中です。特に病理画像AI診断の開発が進められており、今後の技術発展が期待されます。

また、病態記憶に注目した研究にも力を入れています。アトピーや皮膚炎など、一度病気になると、そこにいる細胞がその病気の状態を覚えます。早期発見、早期治療が望ましいですが、例えば、治療の好機でこれぐらいの時期に治療を行えば元に戻るという時期、それ以降に治療しても病気が進んでしまうという境目を決めているのが、病態記憶ではないかと考えています。

皮膚に存在する様々な細胞が病気の状態を記憶し、それが再発や慢性化につながるメカニズムの解明を目指しており、これはアトピーや全身性強皮症など慢性炎症性疾患の早期治療の重要性とも密接に関係しています。

病体記憶をつかさどる機序の一つはDNAの高次構造変化ですが、ストレスや生活習慣がこの構造に影響を与えることが分かってきています。マウス実験などでの研究成果により、些細な環境ストレスが免疫系に影響を及ぼすことが示されており、慢性疾患とストレスの関係性に新たな科学的根拠を与えていると考えられます。

ヘルステック研究会の講義では、病態記憶に着目し、今後の皮膚疾患の治療戦略を紹介しますので、企業の皆様の事業ヒントになれば幸いです。


ご紹介は以上になります。

2025年度ヘルステック研究会は、各回のお申し込みも可能です。浅野先生がご登壇される第5回ヘルステック研究会への参加ご希望の方は、以下ボタンのリンク先フォームより申し込みください。