HTC LETTER vol.01|今井啓道 教授 研究会レポート・NEWSTOPICS

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HTCレターでは、開催したヘルステック研究会と東北大学のヘルステックにまつわるトピックスについてお届けします。

第1回 ヘルステック研究会 レポート

第1回のHT研究会は、東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座形成外科学分野教授 今井啓道 教授 による「普通の顔になりたい ー可視的差異に悩む患者を救うために」です。

本講義では、形成外科医としてのご経験と先進的な研究に基づき、見た目の違いが及ぼす社会的・心理的影響、そしてその支援の在り方について、多角的な視点からご紹介いただきました。(講義から抜粋してお届けします。)

概要

今井先生は、頭蓋顎顔面外科を専門とされています。ご自身の経歴として、東北大学医学部入学から形成外科医としての道を選んだ経緯、東京大学での研修、そして多くの指導者との出会いについてお話しされました。

また、可視的差異(Visible Difference)という言葉の定義、口唇口蓋裂の患者とその家族が抱える問題、外傷による顔の欠損、そして顔の社会的な機能について解説。さらに、可視的差異を持つ患者に対するサポートとして、心理外来の設置、カウンセリングの必須化、メディカルメイクの導入を紹介し、これらの効果を検証するための研究についても言及しました。

最後に、能動的骨接合材の開発、脂肪幹細胞を利用した熱傷治療、難治性血管リンパ管異常に対する個別医療の研究についても触れ、可視的差異問題に対する社会的な啓蒙と行政への働きかけの必要性を訴えました。

顔の再建にかける想いと使命

今井先生は、頭蓋顎顔面外科を専門とし、顔の骨を切除・移動する手術を通して、患者さんの悩みに寄り添う診療を続けています。

顔を失うとは「人生そのものを失うこと」と語り、クマに襲われた方の再建例などを交えて、形成外科の社会的意義と現実的な限界を率直に伝えてくださいました。

「可視的差異」へのまなざし

外見に明らかな違いを持つ方々が直面する心理的・社会的課題は、依然として根深いものです。

講義では、口唇口蓋裂や先天異常の患者に見られる成長に伴う変形、自尊感情の低下、そして“ルッキズム”の影響についても取り上げ、見た目だけで人を判断する社会の課題についてお話しされました。

AIと医療の融合による新たな支援

先生は、患者のQOL向上を目指し、心理支援のAIアプリやメディカルメイク、出生前後のカウンセリングの効果を検証する研究も推進されています。

心理支援のAIアプリ開発は、顔の専門の心理士が少ない現状を解決するために、患者がどこでも適切な心理サポートを得られるようにすることを目指されています。

加えて、行政への啓発や、外見に課題を抱える子どもたちの心のケア体制づくりなど、医療を超えた支援にも力を注いでいる点が印象的でした。

未来を拓く先端研究

講義の終盤では、Muse細胞を用いた熱傷治療、難治性血管リンパ管異常の個別化医療、骨と強固に結合し体内で溶ける新素材の開発など、今後の臨床応用が期待される研究成果も紹介されました。

おわりに

外見の違いをもつ人々が、自分らしく生きられる社会の実現には、医療と企業、そして社会全体の理解と協働が不可欠です。今回の講義は、そうした未来に向けた一歩となる貴重な学びの機会となりました。

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 温度とpH を同時にセンシングできる 多機能ファイバーデバイスを開発 ~生体内プローブやウェアラブルデバイスに展開目指す~

図1. 熱延伸技術による超微細ファイバーデバイスの実現

第10回研究会にご登壇の郭媛元先生のトピックです。

温度は生理学や病理学上の生体反応において重要な役割を担っており、生体システムから細胞レベルまでの化学物質の動態と密接にかかわっています。生体内部温度のモニタリング技術は進展しているものの、局所的な温度変化と体内の化学物質の変化を同時に計測する技術は開発には至っていませんでした。

東北大学学際化学フロンティア研究所の郭媛元准教授、同大学工学部の久保稀央学部生、理学部の阿部茉友子学部生(学際科学フロンティア研究所ジュニアリサーチャー)らの研究チームは、熱延伸技術を用いることで、温度とpHの同時計測が可能である超微細ファイバーデバイスの開発に成功しました。

本研究成果は、2025年3月6日付で米国化学会の学術誌ACS Measurement Science Auに掲載されました。
(2025年3月 31日:学際科学フロンティア研究所 准教授 郭媛元)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2. サントリーグローバルイノベーションセンター×東北大学「水と健康」共創研究所を設置し、共同研究を開始 ~研究テーマは「水と健康」の関係、体内における水の代謝の解明~

第4回研究会にご登壇の山田陽介先生のトピックです。

国立大学法人東北大学(宮城県仙台市、総長 冨永 悌二、以下「東北大学」)と、サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社(東京都港区、代表取締役社長 安東 範之、以下SIC)は、2025年 4月1日に東北大学星陵キャンパスに「サントリーグローバルイノベーションセンター×東北大学 『水と健康』共創研究所」(以下 共創研究所)を開設し、共同研究を開始しました。

食事摂取基準における水摂取の目安量作成のための基礎データを収集し、水の摂取状況と体内における代謝の関係や、水の習慣的摂取による健康への影響の解明等を目指し、「水と健康」に関わる研究を進めていきます。
(2025年4月25日:大学院医工学研究科 教授 山田陽介)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

3. 呼吸器・免疫疾患と心血管代謝疾患の遺伝的背景の多様性を解析〜東アジア系集団と欧州系集団では、両疾患が逆方向の遺伝的相関を示す~

2023年度ヘルステック研究会にご登壇の田宮元先生のトピックです。

大阪大学大学院医学系研究科の山本悠司さん(博士課程)(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、白井雄也 助教(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、東京大学 大学院医学系研究科の山内敏正 教授、門脇孝 東京大学名誉教授(虎の門病院 院長)らの共同研究グループは、喘息などの3種類の呼吸器・免疫疾患と、関節リウマチ、脂質異常症などの7種類の心血管代謝疾患、およびこれらに関連する特徴や性質を対象に、遺伝的関連を調査しました。

その結果、呼吸器・免疫疾患と心血管代謝疾患の遺伝的リスクの関係が東アジア系集団と欧州系集団で異なることを発見しました。また、これらの疾患で遺伝的リスクが逆方向に関連する生物学的パスウェイを発見し、メタボロームやプロテオームなどとの統合解析により、遺伝的リスクとの関連が異なるバイオマーカーを発見しました。

本研究成果によって呼吸器・免疫疾患と心血管代謝疾患を合併するメカニズムの理解が進み、将来的にこれらの疾患の予防や個別化医療へ貢献することが期待されます。

この成果は、2025年4月28日(月)18時(日本時間)に科学雑誌Nature Communicationsにオンライン掲載されました。
(2025年4月 30日:東北メディカル・メガバンク機構 ゲノム遺伝統計学分野 教授 田宮元)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)