HTC LETTER vol.12|NEWSTOPICS・平澤 典保 教授 研究会レポート

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HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 眼科専門医レベルの緑内障診断AIの開発に成功 医療過疎地や大規模眼底写真検診での応用に期待

図1. 研究グループが開発したAI-GSの緑内障診断AI-GS

緑内障は日本における失明の主要原因ですが、初期段階では自覚症状が少なく診断が難しいという課題があります。

東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹(なかざわとおる)教授、シャルマ・パーマナント准教授らの研究チームは、AIを活用した緑内障スクリーニング(AI-GS)ネットワークを開発しました。このAIは、緑内障の診断上重要な所見を個別に解析し、それらの結果を統合して緑内障の有無を判定します。8000枚の眼底写真を用いた検証結果では、感度93.52%、特異度95%という高精度を達成し、特に初期緑内障の検出性能が優れています。

また、AIの判定結果を数値で示すことで、従来のAIが抱えていた「ブラックボックス」問題を解消し、読影医がAIの判断根拠を理解できる点も大きな特徴です。さらに、本モデルは軽量設計であり、携帯型デバイスでも利用可能であるため、専門医が不足する地域での活用の可能性もあります。今後、医療過疎地や大規模眼底写真検診において、このAIを活用した大規模スクリーニングが期待されます。

本研究成果は、2025年2月27日付でnpj Digital Medicineに掲載されました。

【論文情報】

タイトル:A hybrid multi model artificial intelligence approach for glaucoma screening using fundus images
著者: Sharma Parmanand(シャルマ・パーマナント)、高橋直樹、二宮高洋、佐藤正隆、津田聡、中澤徹
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 准教授 Sharma Parmanand(シャルマ・パーマナント)、東北大学大学院医学系研究科教授 中澤徹
掲載誌:npj Digital Medicine
DOI:10.1038/s41746-025-01473-w
(2025年3月 3日:医学系研究科眼科学分野 教授 中澤徹)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2. COI-NEXT「Vision to Connect」拠点が万博プレイベント「わたしとみらい、つながるサイエンス展」に出展

2月13日から2月16日まで、TiB(Tokyo Innovation Base)で行われた、文部科学省主催の大阪・関西万博プレイベント「わたしとみらい、つながるサイエンス展」に、東北大学COI-NEXT「Vision to Connect」拠点が「Eye Contact -未来の診療所-」を出展しました。

このイベントは、2025年の大阪・関西万博の会場でも開催される、大学をはじめ企業や自治体が協働する研究プロジェクトの成果を発信するイベントです。

東北大学は、COI-NEXT「Vision to Connect」拠点が推進する「未来型健診」が実現した2040年に診療所がどのような形になっているかを想像しプロトタイプの展示を行いました。

2月13日のオープニングイベントでは大阪・関西万博スペシャルサポーターのゆうちゃみこと古川優奈さんが登壇し、東北大学の展示ブースを見学されました。

また、2月14日には阿部 俊子 文部科学大臣が視察に訪れ、展示をご覧いただきました。

大阪・関西万博では8月14日~19日に「SDGs+Beyond いのち輝く未来社会 ウィーク」の一環として、同イベントが開催されます。
(2025年2月25日:産学連携機構イノベーション戦略推進センター事務支援室)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

3. ハミガキをする子はおなかの調子もいい~子どもの歯磨き習慣と便秘の関係~

口腔細菌と腸内細菌叢の関連から、炎症性の消化器疾患では適切な口腔衛生管理が推奨されています。また、ガム咀嚼などの口腔刺激は腸活動を促進するとされています。機能性便秘は幼児期に最もよくみられる消化器疾患ですが、これまでに毎日の歯磨き習慣との関係について調査したものはありませんでした。

東北大学病院顎口腔機能治療部の土谷忍助教らの研究グループは、環境省が実施している子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の83,660組の母子を対象に、機能性便秘の有無(質問票:ROMEⅢを使用。3歳、4歳時点)と、毎日の歯磨き回数(2歳、4歳時点)との関連について解析を行いました。

その結果、歯磨き回数が少ない子どもで機能性便秘のリスクが増加することを認めました。適切な歯磨き習慣がある群(1日2回以上)と比較すると、歯磨きを毎日は行わない子ども(1回未満/日)では慢性的な機能性便秘(3歳と4歳時の両方とも)になる確率が62%増加していました。

本研究の成果は、2025年3月5日付でScientific Reportsに掲載されました。
(2025年3月 7日:東北大学病院 顎口腔機能治療部 助教 土谷忍)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

第12回 ヘルステック研究会 レポート

第12回のHT研究会は、東北大学大学院薬学研究科・薬学部
医療薬学専攻 医療薬学講座、生活習慣病治療薬学分野
東北大学薬学部・薬学研究科、平澤 典保 教授 による「抗アレルギー薬の開発研究」です。(講義から抜粋した概要をお届けします。)

概要

平沢教授は、現在のアレルギー治療薬の課題として、第2段階(症状発現)のみを抑制し、第1段階(感作)には効果がないことを指摘しました。特に抗ヒスタミン薬について、即効性はあるものの予防効果が低く、眠気などの副作用があることを説明しました。

新しい研究アプローチとして、上皮細胞を標的としたTSLP(サイトカイン)の産生抑制に着目し、BRD4阻害薬の開発について詳述しました。この新薬は、既存の治療薬とは異なるメカニズムで作用し、アレルギー反応を選択的に抑制できる可能性があることを示しました。

最後に、東北大学医薬品開発研究センターの取り組みについて紹介し、産学連携による創薬研究の重要性を強調しました。

アレルギー性疾患の概要と現状の治療薬について

花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息などの主要なアレルギー性疾患について、その発症メカニズムと治療法が解説されました。特に花粉症の発症過程は2段階からなり、第1段階での抗体産生と第2段階でのヒスタミン放出により症状が引き起こされることが説明されました。

現在の治療薬である抗ヒスタミン薬は第2段階のみに作用し、根本的な治療には至らない限界があることが指摘されました。また、これらの薬剤の副作用などの課題についても詳しく論じられました。

最近では減感作療法など、第1段階に作用する治療法も登場してきており、新たな治療戦略の可能性が示されました。

新規治療薬の開発研究:TSLP阻害薬

上皮細胞を標的とした新しい治療薬の開発アプローチについて詳細な説明がなされました。特にTSLPの産生を抑制するBRD4阻害薬の開発過程が紹介され、既存の治療薬とは異なる作用機序を持つことが示されました。

研究では、特殊な細胞株を用いたスクリーニング方法の確立から、化合物の最適化、作用機序の解明まで、段階的な開発プロセスが実施されました。特に注目すべき点として、この新規化合物が上皮細胞特異的に作用し、全身性の免疫抑制を避けられる可能性が示唆されました。また、外用剤としての開発可能性についての言及もあり、アトピー性皮膚炎治療への新たな展開も期待されています。

医薬品開発研究センターの紹介

東北大学医薬品開発研究センターの機能と役割について包括的な説明がなされました。

創薬研究には有機化学、物理化学、生物学など多岐にわたる専門知識が必要とされ、それらを効率的に統合するプラットフォームとしてセンターが設立されたことが説明されました。特に、基礎研究から臨床試験まで一貫した研究開発体制が構築されており、企業との連携窓口としても機能していることが強調されました。

また、最新の研究例としてPROTACを用いた創薬研究の成果も紹介され、センターの実践的な研究支援体制が示されました。

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

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