HTC LETTER vol.11|NEWSTOPICS・本間 経康 教授 研究会レポート

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HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 筋肉は正常なタンパク質分解によって維持されている ペプチド分解酵素のタンパク質品質管理機能を発見

図1. 本研究の概要図

来年度のヘルステックカレッジでファシリテーターをされる永富先生のトピックです。

骨格筋は日常生活や運動を司る人体最大の組織です。骨格筋の維持には筋細胞を構成するタンパク質の合成と分解のバランスが重要であり、タンパク質分解にはさまざまなペプチド分解酵素が働きます。ペプチド分解酵素はタンパク質の分解だけでなく、さまざまな細胞の調節機能を担っているとされていますが、その機能の全容については十分に解明されていません。

東北大学産学連携機構イノベーション戦略推進センターの永富良一特任教授、国士舘大学大学院救急システム研究科の長名シオン講師らの研究グループは、細胞内におけるペプチド分解酵素の一つであるメチオニンアミノペプチダーゼ(MetAPs)が、タンパク質分解を通じて骨格筋細胞のタンパク質の品質管理を行っていることを発見しました。

タンパク質の品質劣化は小胞体ストレスにつながり、細胞の増殖を抑制することがわかりました。今後、他のタンパク質分解酵素の細胞周期や形態形成の制御も含めて骨格筋量の調節機構の全体像をとらえることで、主に加齢などによって生じる筋肉減少症(サルコペニア)などの運動機能低下に対する効果的な対策につながることが期待されます。

本研究成果は、2025年1月13日細胞ダイナミクスに関する専門誌Biochimica et Biophysica Acta (BBA) – Molecular Cell Research (電子版)に掲載されました。
(2025年1月30日:産学連携機構イノベーション戦略推進センター 特任教授 永富良一)

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2. 肝臓ゾネーションが全身糖代謝と体組成を制御する新しい臓器間ネットワーク機構を解明~糖尿病と肥満に向けた新しいアプローチへの期待~

今年度の第1回ヘルステック研究会にご登壇された片桐先生のトピックです。

2025年1月25日(土)、帝京大学医学部内科学講座准教授 宇野健司らの研究グループが、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野教授 片桐秀樹と東京女子医科大学実験動物研究所教授 本田浩章と連携し、動物モデル(遺伝子改変モデルマウス)を用いて、肝臓に端を発した、全身糖代謝と体組成を制御する新しい臓器間ネットワーク機構の存在とその仕組みを明らかにしました。

肝臓は、肝細胞や動静脈、門脈、胆管などによって構築される無数の肝小葉構造が集まってできています。様々な栄養素の代謝(metabolism)は、肝小葉内の領域ごと(門脈域、中心静脈域、中間域)に分かれて (zonation) 調節されており、このことは代謝の肝臓ゾネーション(metabolic liver zonation)と呼ばれています。しかし、これまで肝臓ゾネーションの詳細なメカニズムは明らかではありませんでした。

そこで、本研究では、この肝臓ゾネーションが生体内で時空間的にどのように調節され、全身の代謝や脂肪組織・骨格筋などの他臓器へいかなる影響を及ぼすのか、その機序を解明することとしました。具体的には、肝臓ゾネーションに関与するR-spondin3 (Rspo3) 蛋白を標的とし、モデルマウスを用いた様々な検討を行いました。

その結果、生体内には、肝臓のRspo3に由来する新しい臓器間のネットワーク機構が存在することを見出しました。さらに、肝臓がこのネットワークを介して、脳や筋肉、脂肪組織と連携することにより、全身の糖代謝を制御する、また褐色脂肪組織や白色脂肪組織由来のエネルギー消費のバランスを制御するという、新たな知見を得ました。(2025年1月27日:大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野 教授 片桐秀樹)

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3. 農学研究科の北澤 春樹 教授が2025年度日本農学賞/読売農学賞を受賞しました

ヘルステックカレッジ2023年にご登壇された北澤先生のトピックです。

農学研究科の北澤 春樹 教授(現 研究科長・学部長)が「イムノバイオティクスの畜産応用基盤研究」で、2025年度日本農学賞/読売農学賞を受賞しました。

日本農学賞(Japan Prize of Agricultural Science)は、大正14年当時の「農学会」が「農学賞」の授与を行ったことに始まり、昭和4年、「日本農学会」が設立され、昭和17年に「日本農学賞」と名前を変え、日本の農学研究者間における最高栄誉の賞として、今日まで続いている賞です。現在、「日本農学会」には農学分野に関連する54の国内学会が加盟し、各加盟学会から優れた研究業績を挙げた研究者の推薦を募り、厳密な選考を行い、授与者を決定しています。

なお、読売農学賞(The Yomiuri Prize of Agricultural Science)は、昭和39年より読売新聞社から授与されていますが、選考は当時より日本農学会に委任されており、日本農学賞の授与者を読売農学賞へ推薦する形式としています。

授与式は、日本農学賞授与式並びに読売農学賞授与式として、2025年4月5日の日本農学大会に協同して行われる予定です。

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

第11回 ヘルステック研究会 レポート

第11回のHT研究会は、、東北大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 医用画像工学分野、計測自動制御学会 監事、本間 経康 教授 による「医用画像診断のための人工知能による解析から人工知能の解析へ: 医療課題解決に向けて」です。(講義から抜粋した概要をお届けします。)

自己紹介

北海道出身の本間先生は、現在在住の仙台との気候と比較しながら北海道での生活経験を共有されました。カナダ留学時には、プレーリー地域での極端な気温差(夏季+40度、冬季-40度)を経験し、街中からオーロラが観察できる貴重な体験をされました。

また、深層学習に関する著書の執筆や、チューリング賞受賞者のヤン・ルカン氏との交流についても言及されました。

医療画像診断とAI技術の現状分析

医療分野における人材不足、特に医師の地域偏在や診療科偏在の深刻な課題について提示されました。コロナ禍で顕在化した医療体制の脆弱性についても言及し、AI技術による画像診断支援システムの開発により、医療サービスの持続可能性向上と診断精度の標準化が期待できることを示されました。

特に放射線科における画像診断業務の効率化と、二重読影における人的負担の軽減可能性が具体的に説明されました。

乳がん検診システムの技術的考察

日本人の2人に1人が生涯でがんに罹患し、3人に1人ががんで死亡する現状を示されました。特に女性の乳がん罹患率は増加傾向にあり、早期発見の重要性について強調されました。

さらに、マンモグラフィー検査における微小石灰化、腫瘤、構築の乱れなどの特徴的所見の判読方法の詳細についても解説いただきました。

また、AI支援による診断精度の向上(約80%の正確性)と、専門医の判断を補完する形での臨床応用の成果について報告されました。

AI技術の課題と将来展望

画像診断AIにおける誤判定リスクと信頼性に関する技術的課題について分析されました。特にCOVID-19診断での事例を通じて、AIの判断根拠の透明性確保の重要性を指摘されました。

この解決策として、医療従事者向けAI教育プログラムの体系化が進められ、数千人規模での受講実績について報告されました。また、診断結果の即時フィードバックによる行動変容促進など、新たな臨床応用の可能性についても示されました。

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

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