HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。
東北大学 ヘルステックTOPICS
1. 日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究を開始しました (J-DEPP研究)~
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井 秀典。以下 国立長寿医療研究センター)は、東北大学、鳥取大学、鹿児島大学、秋田大学、神戸大学、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、札幌医科大学、東京都健康長寿医療センターと共同で、日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究「J-DEPP研究 (JAPAN DEMENTIA EARLY PHASE PROJECT)」を開始しました。
【研究の概要】
J-DEPP研究 (JAPAN DEMENTIA EARLY PHASE PROJECT)では日本独自の認知症早期発見・診断後支援までを含めた一貫した支援モデルの構築に向けて以下の3つの課題に取り組みます:
1.認知症リスク早期発見の大規模実証
2.認知症リスクを調べるための検査の基準値の設定
3.認知症リスク早期発見に向けた血液バイオマーカー ※1の有用性の検証
これらの成果を統合し、最終的には各自治体に参考にしていただける「認知症リスク早期発見のための手引き」を作成します。
【用語解説】
注1.バイオマーカー: 病気の有無や進行の状態を客観的に示す指標のことで、体液(血液、脳脊髄液、尿等)の検査や、画像検査等で得られるデータをバイオマーカーといいます。近年、アルツハイマー病の原因と考えられているタンパク質(アミロイドβやリン酸化タウ)を血液中から検出する技術が飛躍的に向上しており、血液でこのような物質を調べることで、認知症の診断の補助や、将来認知症を発症するリスクを予測できると期待されています。
(2024年11月21日:東北メディカル・メガバンク機構 個別化予防・疫学分野 教授 寳澤篤)
詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)
2. 細菌を物理的に撃退する チタンナノ表面形態デザインを発見 -ナノ突起構造の電気的反応性が抗菌効果を発揮-
細菌が薬剤に対して耐性を持って効かなくなる対策のために、ナノ突起で細菌を物理的に破壊する物理的抗菌性ナノパターン材料が様々な材質で開発され、注目を集めてきました。しかしこれまで、特にチタンなどの無機材料をもちいた抗菌性ナノパターン材料の効果は確認されていますが、抗菌活性の原理は十分に解明されていませんでした。
東北大学大学院歯学研究科分子・再生歯科補綴学分野の山田将博准教授と江草宏教授らの研究グループは、異方的に配列した無数のナノ突起が細胞に物理的刺激を加えることで、生体活性を発揮するチタン微細加工法を開発しました。
今回、表面に存在する無数のナノ突起の異方的な配列そのものが、チタンナノ表面の電気的反応性を高めて、物理的に細菌の付着抑制や殺菌効果(メカノ殺菌)を発揮することを示しました。
本研究成果により、抗菌剤を加えずに抗菌性を獲得するチタンインプラント材料の開発とともに、このナノ表面形態デザインの原理を応用することで、様々な材質で物理的抗菌性ナノパターン材料の開発が期待できます。
本研究成果は、2024年11月22日に科学誌Material Today Bioのオンライン版に掲載されました。(2024年11月29日:大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野准教授 山田 将博、教授 江草 宏)
詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)
3. 胎児における造血ホルモンの調節メカニズムを解明 〜最初の赤血球には酸素不足が必要!〜
赤血球や血管が形成される前の幼若な胎児は、母体の赤血球から拡散される少量の酸素に依存しながら身体を大きくする必要があり、重篤な低酸素状態に陥っていると考えられていました。
東北大学大学院医学系研究科酸素医学分野・同大学未来科学技術共同研究センターの鈴木教郎教授らのグループは、これまでに、赤血球を増やす作用のあるホルモン「エリスロポエチン」が胎児期には神経系の細胞から分泌されることを発見しました(参考文献)。
今回、ヒトおよびマウスの細胞を用いて、発育途中の幼若な胎児は酸素運搬を担う赤血球が存在しないために低酸素状態に陥っており、その低酸素状態が神経系細胞を未熟な状態にとどめることによってエリスロポエチンの分泌を促すことを発見しました。エリスロポエチンのはたらきにより赤血球が増え、低酸素状態が解消されると、神経系細胞はエリスロポエチン分泌をやめて成熟します。この発見により、有害だとみなされていた低酸素状態が胎児の成長に活用されるという逆説的な現象が示されました。
本研究成果は2024年12月2日に学術誌Molecular and Cellular Biologyに掲載されました。(2024年12月 4日:大学院医学系研究科酸素医学分野 教授 鈴木教郎)
詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)
第9回 ヘルステック研究会 レポート
第9回のHT研究会は、東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 眼科学分野、東北大学COI-NEXT「Vision to Connect」拠点 プロジェクトリーダー、中澤 徹 教授による『「みえる」から始まる、社会の行動変容を促す仕組み開発』です。
概要と目標
中澤先生は、東北大学COI-NEXT「Vision to Connect」拠点の目標として、市民のニーズに応え大学の信頼性を担保しながら、迅速なビジネス展開を目指す新しい研究チームの形成についてあげられました。「Vision to Connect」拠点には40社以上の企業が参画し、医薬、デジタル、生活サービスなど異なる強みを持つメンバーが協力して社会課題解決に向けて取り組んでいます。
街角健康ラボの設置と成果
イオン富谷店に設置された「まちかど健康ラボ」についてのお話では、街角健康ラボでのデータ分析結果から、様々な健康チェック項目(視力、自律神経、野菜摂取量など)で市民の健康意識向上に貢献していることが報告されました。
東北大学病院 健診サテライト まちかど健康ラボ HPはこちら
緑内障研究と治療法の開発
緑内障が失明原因の40%を占める現状や、40歳以上の5%が罹患している実態についてのお話しの中で、新しい治療法の開発状況や、AIを活用した診断システムの進展、さらに大規模研究費による医師主導型治験の成果について報告されました。
世界緑内障週間の活動と啓発
3月9日から15日の世界緑内障週間における啓発活動についてのお話しがありました。この啓もう活動において、宮城県での取り組みが全国の約2割を占めるまでに成長したことが報告されました。様々な企業や団体との連携による啓発活動の展開についても詳しく説明されました。
AI活用による診断支援システムの開発
EMM(Electronic Medical Management ※電子カルテ)システムを活用したAI診断支援の開発状況について説明されました。1600人以上のデータをもとに、高精度な診断支援システムの構築を進められてます。
局所空間デジタルツインの紹介
最新の研究として局所空間デジタルツインの概念を紹介しました。この技術は、非常に狭いエリアでの人の活動や人と物とのインタラクションをリアルタイムにキャプチャーし、サイバー空間上でモデル化するものです。楽器演奏支援、空間デザイン、エンターテイメントなどの応用例が示され、ヘルスケア分野への応用可能性も示唆されました。
新規治療法開発と今後の展望
AIを活用した診断システム開発、遺伝子治療の可能性、創薬研究の進展についての話では、カルパイン阻害薬の開発や、60人規模の治験実施についての報告がありました。また、産学連携による研究開発の重要性を強調されました。
(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)