HTC LETTER vol.08|NEWSTOPICS・菅沼 拓夫 教授 研究会レポート

東北大学ヘルステックカレッジ > LETTER > HTC LETTER vol.08|NEWSTOPICS・菅沼 拓夫 教授 研究会レポート

HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. GFAP遺伝子の変異が認知症の発症に関わる大脳白質病変に影響  ~脳画像所見における遺伝的要素の新知見~

大脳白質病変は脳MRI画像でよく見られる病変で、脳卒中や認知症の発症に関わる重要な所見です。大脳白質病変は高血圧などの生活習慣病があると出現しやすいことが報告されていますが、遺伝的要因も関与することが知られています。

これまでの研究で大脳白質病変に影響する遺伝要因が明らかにされてきましたが、アジア人を対象としたものは数百人程度での小規模な解析に限られていました。

九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、病態機能内科学の古田芳彦助教、眼病態イメージング講座の秋山雅人講師、および弘前大学、岩手医科大学、金沢大学、慶應義塾大学、松江医療センター、愛媛大学、熊本大学、東北大学、理化学研究所生命医科学研究センターらの共同研究グループは、健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:JPSC-AD研究の参加者9,479人の脳MRI検査とゲノムデータを用いてゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study)を行い、大脳白質病変容積に関連する遺伝子座を検索しました。

その結果、大脳白質病変容積に関連する遺伝子座として17番染色体のGFAP遺伝子の295番目のアミノ酸を変える変異を同定しました。さらに、英国のUKバイオバンク研究のGWASデータとの統合解析を実施した結果、20か所の遺伝子座が大脳白質病変容積に関連しており、そのうち6番染色体(SLC2A12遺伝子)に存在する1か所の遺伝子座が新規の遺伝子座であることを明らかにしました。

本研究成果は、2024年11月13日午後7時(日本時間)に国際学術誌npj Genomic Medicineオンライン版に掲載されました。(2024年11月14日:スマート・エイジング学際重点研究センター 教授 瀧 靖之)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2. 記憶の運命はグリア細胞が握る マウスのグリア細胞光操作で判明

同じような経験をしても、鮮明な記憶として残る場合と、跡形もなく忘れ去る場合があります。東北大学大学院生命科学研究科の山尾啓熙(ひろき)大学院生(日本学術振興会特別研究員)と松井広(こう)教授(大学院医学系研究科兼任)は、脳内アストロサイトに光に反応するタンパク質を遺伝子発現するマウスを用いて、記憶の形成過程を調べました。

マウスを実験箱に入れて、床に電気ショックを流すと、マウスは痛みを感じます。翌日、同じ実験箱にマウスを入れると、通常は、前日の体験を覚えているので、マウスはすくみ反応を示します。

そこで、実験初日、床に電気ショックを流した直後に光ファイバーを通して扁桃体を照射し、アストロサイトを酸性化しました。すると、その体験の数分後のマウスはすくみ反応を示しましたが、翌日のテストでは恐怖記憶をすっかり忘れていて、実験箱内を気楽に探索しました。

この結果、怖い記憶が長期的に残るか残らないかは、恐怖体験の瞬間のアストロサイトの状態に依存することがわかりました。アストロサイトの細胞機能に介入することで、トラウマの形成を回避できる可能性が示唆されました。

本成果は2024年11月4日付で脳科学の学術誌Gliaに掲載されました。(2024年11月11日:生命科学研究科 教授 松井 広)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

3. ChatGPT等で有効な深層学習は脳波の解析でも有用である  ―Transformerモデルは脳波パターンを高精度に推定する―

脳波は、脳の様々な活動の結果として発生する電気信号の集合であり、絶え間なく連続して発生する時系列信号です。脳波における特定の周波数の信号(アルファ波やガンマ波)が、覚醒状態や注意を反映していることが知られています。今よりもさらに高度な情報を脳波から読み取るためには、近年発展が著しいAI技術の活用に期待がもてます。特に、最近のChatGPTなどの生成AI技術で活躍している、時系列情報である自然言語処理に有用なVision Transformer(注1)をベースにした深層学習モデルが有望かもしれません。

東北大学大学院薬学研究科の佐々木拓哉教授・田村篤史特任助教・鹿山将研究員、生命科学研究科の筒井健一郎教授、生理学研究所の北城圭一教授らの研究グループは、マウスに嫌悪的な内臓痛を引き起こし、8つの脳領域から記録した脳波(局所場電位)パターンをVision Transformerにより解析しました。その結果、従来の画像解析で用いられるような深層学習と比較して、より高精度に内臓痛の状態を検出できることを示しました。

本研究成果は、複雑な脳活動パターンの解読に新たな可能性を開くものであり、情動の客観的評価をはじめとして、高度な脳-機械インターフェースの開発につながることが期待されます。

この研究成果は、2024年10月17日(木曜日)に科学誌Scientific Reports誌に掲載されました。(2024年10月29日:大学院薬学研究科 薬理学分野 教授 佐々木 拓哉)

詳細はこちらか(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

第8回 ヘルステック研究会 レポート

第8回のHT研究会は、東北大学サイバーサイエンスセンター・ネットワーク研究部 教授 (センター長)、大学院情報科学研究科 (兼任)、菅沼 拓夫 教授による 「ヘルスケアIoTネットワークシステム」です。(以下講義より引用)

講義の概要と自己紹介

菅沼教授は、東北大学サイバーサイエンスセンターの教授およびセンター長であり、インターネット関連の研究に長年従事されています。講義ではヘルスケアIoTネットワークシステムについて、装着型センサーの開発と多人数参加型屋外イベントでのヘルスモニタリングシステムの2つの研究テーマを中心に話すことが紹介されました。

サイバーサイエンスセンターの紹介

菅沼教授がセンター長をされている、東北大学サイバーサイエンスセンターは、世界トップクラスのスーパーコンピューターを運用しています。このスーパーコンピューターは企業も利用可能であり、トライアルユースの機会があることが紹介されました。

東北大学 サイバーサイエンスセンター HP

ヘルスケアIoTネットワークの現状と課題

ヘルスケアIoTの現状として、多くのシステムがIoTデバイスとブルートゥースを使用してスマートフォン経由でデータを送信していることを指摘されました。この方式の課題として、スマートフォンの必要性、ネットワーク構成の柔軟性の欠如、データの囲い込みなどが挙げられました。

装着型センサーの開発

対話型コミュニケーション認識のための装着型センサーの開発について説明では、センサーに付いた二つのマイクを使用した発話検出、RSSIを用いた近接状態検出、LPWAを活用したデータ収集などの特徴を上げられました。実験結果では、対話状況の観測や長時間の稼働、リアルタイムなデータ収集が可能であることが示されました。

多人数参加型屋外イベントでのヘルスモニタリングシステム

マラソンやフェスティバルなどの大規模イベントでの健康管理の課題に対応するため、ネットワークリソースの効率的な利用を目指したプロトコルの開発について説明されました。グループ構築、再構築、多段階接続の3つのプロトコルが提案され、シミュレーション結果が示されました。

局所空間デジタルツインの紹介

最新の研究として局所空間ディジタルツインの概念を紹介しました。この技術は、非常に狭いエリアでの人の活動や人と物とのインタラクションをリアルタイムにキャプチャーし、サイバー空間上でモデル化するものです。楽器演奏支援、空間デザイン、エンターテイメントなどの応用例が示され、ヘルスケア分野への応用可能性も示唆されました。

まとめと今後の展望

最後に、提案方式やデバイスの実用化レベルへの向上、実際のユースケースへの適用、ヘルスケアアプリケーションへの展開を今後の課題として挙げられました。さらに、IoTネットワークシステムと局所空間ディジタルツインの融合による研究開発の加速を目指すと締めくくりました。

(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)

PARTICIPATION
参加方法