HTCレターでは、東北大学のヘルステックにまつわるトピックスと、開催したヘルステック研究会についてお届けします。
東北大学 ヘルステックTOPICS
1. 東北大学病院×ロート製薬×イオン東北 イオン富谷店に東北大学病院健診サテライト 「まちかど健康ラボ」オープン
東北大学病院(仙台市、病院長:張替 秀郎)、ロート製薬株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:杉本 雅史)、イオン東北株式会社(本社:秋田市、代表取締役社長:辻 雅信 ※姓の漢字は部首が一点のしんにょう )は、東北大学COI-NEXT「Vision to Connect」拠点(仙台市、プロジェクトリーダー:中澤 徹)の活動の一環として、「東北大学病院健診サテライト まちかど健康ラボ イオン富谷店」を7月18日に開設しました。
自覚症状の乏しい目の疾患は発見が遅れる傾向があり、十分な治療効果が得られないことから、早期発見と行動変容を促す社会づくりが重要です。東北大学COI-NEXT「Vision to Connect」拠点はこれまで、東北地区の医療の中核を担う東北大学病院、ヘルスケアソリューションを提供するロート製薬株式会社、地域生活を支えるイオン東北株式会社と連携し、生活動線上で目と全身の健康を意識し行動変容を促す仕組みづくりを検討してきました。
今回開設する「まちかど健康ラボ」では、イオン富谷店にご来店されるお客さまが、目と全身の健康状態をセルフチェックできる施設で、同意を得た方には疾患の早期発見等を目的とした研究に協力いただきます。
視力、実用視力、視野等の眼科検査に加え、皮膚、睡眠、自律神経と血流等の検査など、目と全身の健康状態を本格的・包括にチェックし、研究参加に同意いただいた方のうち、希望者を対象に東北大学病院の医師が週1回、予約制で健康相談および生活習慣アドバイスを実施します。さらに、研究同意を得た方の測定結果を用いて、疾患の予測・予防研究のデータ基盤の構築と活用を目指します。
非医療機器による測定結果と疾患リスクとの関連や受診の行動変容をエビデンスに基づいて明らかにすることで、日常生活動線の中で病気の早期発見や予防につながる医療機器やシステムや予測モデル、サービスなどの研究開発を促進します。眼科領域からスタートし、今後は他科へも展開していく予定です。
本取り組みを通じて、大学、自治体、企業の共創によるヘルスケア研究の促進、社会実装を目指し、地域の皆さまがより健康な生活を送れるようサポートします。
(2024年7月18日:東北大学COI-NEXT「Vision to Connect」拠点)
詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)
2. 母親のアクティブな生活習慣は子どもに影響する 子どもの身体活動促進には妊娠中から身体活動を高めることが重要
俗に「子どもは親の背中を見て育つ」といいますが、どうなのでしょうか。 東北大学大学院医学系研究科運動学分野の門間陽樹准教授、大学院生山田綾、永富良一教授(現・産学連携機構)、エコチル調査宮城ユニットセンターの大田千晴教授らのグループは、宮城県の母子を妊娠確認時から追跡したデータ(1067組)を分析した結果、妊娠前から産後5.5年の身体活動レベルが最も高い母親のグループの子どもは、最も低い母親のグループと比較して、身体活動レベルが高いと判定される確率が3.72倍高いことが示されました。
子どもの身体活動不足は小児肥満や体力不足をきたす一因であり、本知見は妊娠期から育児期における母親の身体活動を高めることが、子どもの身体活動に好影響を及ぼす可能性を示す成果です。
本研究成果は、2024年7月20日にJournal of Epidemiology誌のオンライン版に掲載されます。
※本論文に示された見解は著者自らのものであり、環境省の見解ではありません。また、この研究をもって妊娠中のアクティブな生活習慣を推奨するものではありません。
(2024年7月22日:大学院医学系研究科運動学分野 准教授 門間陽樹)
詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)
3. 原発開放隅角緑内障の遺伝的リスク推定法を開発 〜個人の遺伝的リスクの予測から失明原因疾患の早期発見と予防法の構築へ!〜
現在、日本の視覚障害の原因で最も多いのは緑内障であり、原発開放隅角緑内障が主要な病型です。眼圧や近視など眼科的な要因に加えて、遺伝的な要因が発症に関与していることがこれまでの研究で明らかになっています。
報告者らの研究グループは、原発開放隅角緑内障のなりやすさに関わるゲノム上の感受性領域をこれまでに報告してきましたが、疾患発症に及ぼす影響については十分に検証されていませんでした。
九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座の秋山雅人講師、眼科学分野の藤原康太助教、園田康平教授、衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、東北大学大学院医学系研究科眼科学分野の中澤徹教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構ゲノム解析部門の田宮元教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑形質ゲノム解析分野の鎌谷洋一郎教授らを中心とした研究グループは、個人の原発開放隅角緑内障の遺伝的ななりやすさを数値化する手法の開発に取り組みました。
東北大学が収集した患者-対照サンプルを用いて複数の遺伝的リスク計算法の精度を検証したところ、国際コンソーシアムが報告した127の遺伝的変異のうち、東京大学医科学研究所のバイオバンク・ジャパン(※1)の研究参加者で実施されたゲノムワイド関連解析(※2) (GWAS)の結果が参照可能な98の遺伝的変異に基づき算出した遺伝的リスク計算法が最も優れた判別能を示しました (受信者動作特性 [ROC]曲線下面積: 0.65)。この結果は、日本緑内障学会遺伝子関連研究班と日本眼科学会 ゲノム研究委員会(※3)により収集された患者-対照サンプルでも、同等の性能であることが確認されました (ROC曲線下面積: 0.64)。
遺伝的なリスクが下位10%と上位10%に分類される方を比較すると、患者と対照の割合には大きな違いがあることが確認されました (オッズ比: 6.15)。ここまでの解析は主に大学病院を受診した比較的重症な患者さんを対象としていたため、開発された遺伝的リスク推定法について、九州大学が実施している疫学研究である久山町研究で取得されたデータでも検証を行いました。
この結果、一般住民においても遺伝的リスクが下位20%と上位20%に分類される方では、遺伝的リスクが高い群で患者の割合が多いことが確認されました。さらに、緑内障を発症していない住民において、原発開放隅角緑内障の遺伝的リスクが高い人は、眼圧が高く視神経乳頭陥凹比が大きいことがわかりました。
今回の研究成果により、日本人において原発開放隅角緑内障の発症リスクの判定が遺伝情報から可能であることが示されました。本研究成果は、一人一人の遺伝的な緑内障のなりやすさの違いに応じたスクリーニング検査や発症予防に役立つことが期待されます。
本研究成果は米国の雑誌「Ophthalmology」に2024年7月18日(木)(日本時間)に掲載されました。
【用語解説】
注1.バイオバンク・ジャパン 東京大学医科学研究所に設置されたアジア最大規模の生体試料バンクで、約27万人の研究参加者から収集した臨床情報に加え、DNAや血清サンプルを保管し、研究者への試料やデータの提供を行っている。
注2.ゲノムワイド関連解析 (Genome-wide association study; GWAS) 2002年に理化学研究所が世界に先駆けて報告したゲノムスクリーニング方法。病気のなりやすさなど様々な個人の違いに関係があるゲノム上の領域を特定する手法。
注3. 日本眼科学会 ゲノム研究委員会 (GRC-JOS) 日本眼科学会が、眼科領域のゲノム研究の推進を目的に設立した委員会。現在、多くの眼科機関の協力を得て、研究者間で共有が可能な対照群データセットの構築を行っている
(2024年7月16日:大学院医学系研究科眼科学分野 教授 中澤 徹)
詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)
第5回 ヘルステック研究会 レポート
第5回のHT研究会は、東北大学 大学院経済学研究科 教授
高齢経済社会研究センター センター長、スマート・エイジング学際重点研究センター 加齢経済社会研究部門長、吉田 浩 教授による 「人口高齢化と健康を通じた地域社会の持続可能性」です。(以下講義より引用)
本日の概要
今日の話は「人口高齢化と健康を通じた地域社会の持続可能性」です。簡単に概要をまとめました。
- 人口高齢化による地域の持続可能性を経済学的に判断するための数量的基準を明確にします
- そのうえで、地域社会の破綻を回避するためには、人々の健康水準をどれほど改善する必要があるかをシミュレーション分析します。
- 現在東北大学で行われているCOI-NEXT(Vision to Connect)事業で健康のための個人の行動変容について紹介します
- 特に人文・社会科学面からのアプローチに焦点を当てます←今日のポイント
何がどうなると持続不可能なのか。なんとなくこのまま人がいなくなっていくと破綻するかもしれないという漠然としたイメージをお持ちかもしれません。どうなったらダメなのかということを数字で明らかにすることで「これだったら人口が減っても維持できる」というような明確な基準について、今日は考えていきます。
その上で地域社会の破綻を回避するために、実は人々の健康水準を改善することが地域社会の持続可能性に大きな役割を果たす、ということをシミュレーション分析します。地域社会の持続可能性と健康との間の因果関係に、皆さんすっとは来ないかもしれませんが、なぜ健康の話なのかということも間をとりもってお話ししたいと思います。
また現在、東北大学で行われておりますCOI-NEXT VisionToConnect事業には、4つの研究開発課題があります。健康のための個人の行動変容、医学的なものよりも個人の部分というところを重要に考えていきます。
そして今日のポイントになります。ヘルステック研究会では医学系や工学系の先生が多かったと思いますが、今日は特に人文社会科学の面から少子高齢化と健康を通じた地域の持続可能性について、考えていきます。今日の話の特徴はこの4番にあります。
自己紹介
私の自己紹介です。私は東京オリンピックの時に生まれました。一橋大学を出て銀行でバブルを膨らましていたんですけれども、そのあと辞めて大学院に戻り博士課程まで行って満期退学した後、東北大学の助教授になって今に至ります。
最近は何をやったかというと、今年4月1日に「2531年に佐藤さんが100%になる」というのを発表しました。「苗字の研究をしているんですか」とよく言われますがそうでなく、少子高齢化問題を解きほぐす一つの手がかりとして日本の夫婦別姓の問題についての計算したわけです。時間があれば、本日ご紹介したいと思います。
1.高齢化と地域の持続可能性
まず高齢化と地域の持続可能性についてです。総務省の人口推計で2024年の確定値が最近発表されました。1月1日時点で日本の人口は1億2414万人です。まだ1億2000万人いますが、去年の1月に比べてもう60万人も減っています。60万人といったらどこかの市の2つ分ぐらいです。
特に重要なところで年齢別の内訳をみますと、15歳未満の人口は34万人で大幅に減っています。それから15歳から64歳、これは働く世代です。生産年齢人口と呼ばれていますが、これも30万人減っています。65歳以上の高齢者人口は、逆に増えていまして、プラス3万人。さらに75歳以上が71万人増えています。少子高齢化の、さらに上の超高齢社会という状態になっているわけです。
もう一つ気になるのが総人口です。マイナス60万人で、日本人だけを問題にしますと80万人減っています。残りの20万人は、外国人が日本に入ってきているという状態です。日本人の人口が減っているニュースに、みなさんはもう驚くこともなく「また今年もか」と思われるかもしれません。
2007年ぐらいから総人口が減りはじめ、今後もどんどん減っていくだろうと推定されています。ちょっと文学的な表現をしますと、私たちは日本人が1億人以上いる時代を見届ける最後の世代かもしれません。「昔は日本人は1億人もいたんだよ、今は7000万人ぐらいだけどね」というようなことを、自分の孫やひ孫に言うようになるかもしれません。
日本の子ども人口時計
少子化で、高齢者は増えているとはいえ人口はどんどん減っていて、少子化対策しなければいけないということは、なんとなく皆さんわかっていると思います。しかし、なかなか決定打が出ない。
私は経済学をやっているので物事を数字で明らかにしてまして、「日本の子ども人口時計」というのも毎年計算しています。過去1年間の子どもの数、今は33.6万人減っていますので、このまま減っていくと将来どうなるかという計算します。
日本の子どもが一人になるまでの残された時間について、単純な機械的計算でも2720年5月5日には子どもがいなくなると言われたら、ちゃんと少子化対策しなきゃだめだということが分かってもらえるんではないか。この時計はもう10年以上前から作っていまして、毎年4月1日時点の子どもの数を前の年からの減少率で計算しています。
ベビーブーマーの孫世代があったりと、グラフはぼこぼこしていますが、毎年計算していると、子どもが一人になるまでの時間は短くなっています。世界の終末時計というのがあって、あと5分とかあと1分縮まったとか言われますけど、子どもが一人になるまでの時間もどんどん縮まりつつありまして、坂道を転がるように少子化が進んでいるということを数字で出しています。
ここで疑問に思われる方がいらっしゃると思います。なぜ高齢者が71万人も増えるのか。人は生まれると減っていくだけなのになぜ増えるのか、疑問に思われる方もいらっしゃると思います。私も疑問に思って、年齢別の人口変化を見ました。
2023年の年齢別人口と2020年と2023年の差を取っています。70歳世代が下がったのに、75歳でグラフがパンと上がってくるのは、その70歳のベビーブーム世代が75歳の方に繰り上がったために、増えているということになっています。
また、ちょっとびっくりすることがあります。去年発表された日本の将来人口推計では、前回と比べますと遠い将来の日本人は増えている。こんなに出生率が悪いのに、なぜ増えているのでしょう。
総人口で見た場合、日本人は減っていますが、前回推計水準で日本人だけ見ると今度は下がっているということで、将来は子どもだけでなく純粋な日本人もどんどんいなくなる。別に私は国粋主義者ではありませんけれども、日本では外国人の比率がどんどん高まっている。文化的にも国際化していかなきゃいけないということが言えます。(後略)
(全講義はヘルステックカレッジの参加でご覧いただけます)