8月6日開催の第4回HT研究会は、本橋 ほづみ 教授による「酸化ストレスと硫黄代謝」です!

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第4回HT研究会は、東北大学大学院 医学系研究科 医化学分野、東北大学加齢医学研究所 加齢制御研究部門、遺伝子発現制御分野、本橋 ほづみ 教授 「酸化ストレスと硫黄代謝」です。

趣味が「ピアノ」であるという先生は、インタビューの中で「研究は自己表現である、というのが私の持論です。研究は芸術に似ていて、研究者は画家、小説家、作曲家、演奏家などにとても似ていると思っています。厳かな自然の摂理をどのような切り口で理解して利用できる形に捉えて表現するのかは、その人の個性の発露に他なりません。」とお話しされています。

このインタビュー記事は、東北大学大学院医学系研究科・医学部 大学院説明会特設ウェブサイト「M-Labo」に掲載されています。こちらより一部抜粋し紹介いたします。

生命の根源的な営みへの理解深め、加齢疾患の病態解明へ

体の中の酸化還元反応(レドックス反応)の制御は、生命にとって最も根源的な営みです。レドックス代謝が遺伝子発現に及ぼす影響の理解を通して、炎症やがんなどの加齢関連疾患の病態を解明したいというのが大きな目標です。

最近、明らかになってきた新しい生体分子である超硫黄分子の生体内の機能と、その産生に関わる制御機構について、マウスの遺伝学の手法を駆使しながら研究を進めています。常に大事にしているのは、多数の生化学反応を統合することで生命を営んでいる生物個体の中で見えてくる現象を追求するということです。

マウスの実験と合わせて、最近では大学病院の臨床科の先生方との共同研究によりヒトの検体を用いた解析も積極的に実施しています。個体を用いた実験をすることで、試験管内での反応や培養細胞を使った実験では分からなかった超硫黄分子の機能が明らかになりつつあります。

また、酸化ストレス応答や低酸素応答の新しいメカニズムを調べることで、超硫黄分子の生合成制御に関わる因子として、転写因子NRF2と活性化型ビタミンB6であるPLPの重要性も明らかにしました。これらのメカニズムの理解から、がんや炎症性腸疾患、肺線維症、サルコペニアなどの病態の分子基盤を明らかにしたいと考えています。
(後略。続きはM-LaboHPよりご覧ください)

レドックス代謝の生化学から遺伝子発現の理解へ

本橋先生の研究室HP「Motohashi Lab」に掲載されている研究内容について、一部抜粋し紹介いたします。記事の全文についてはサイト内の研究内容よりご覧ください。

酸化ストレス応答機構の新たなプレーヤー

KEAP1-NRF2制御系は、生体の酸化ストレス応答機構として重要な役割を果たしています(Yamamoto et al., Physiol Rev 2018)。NRF2の機能不全は、化学的・物理的なストレスに対する脆弱性をもたらし、様々な病態の基盤をなしていることが明らかにされてきています。NRF2はメディエーター複合体のサブユニットMED16と直接結合することで、転写活性化をもたらします(Sekine et al., Mol Cell Biol 2015)。MED16はシステインに富むタンパク質で、酸化ストレスによりそのチオール基が酸化修飾を受けることから、核内のレドックスセンサーとして機能するものと予想し、その検証に挑んでいます。(後略)

慢性低酸素における酸素感知システム

低酸素に対する細胞の応答を担う重要なシステムとして、PHD-HIF制御系が有名です。しかし、低酸素状態が持続すると、PNPO-PLP制御系という全くことなるシステムが作動することを見出しました(Sekine et al., bioRxiv 2022)。(中略)生理的な低酸素状態にある細胞・組織におけるPNPO-PLP制御系の重要性を明らかにしたいと考えています。

超硫黄分子の生体内機能の解明

硫黄は太古の海で生命が誕生して以来、地球の生命の歴史を牽引してきた元素です。(中略)私達は、遺伝子改変マウスを用いて、ミトコンドリアや細胞質において超硫黄が果たす役割の解明に挑んでいます。

NRF2活性化がんの悪性化メカニズムの解明

正常な細胞においてNRF2はKEAP1と結合することでユビキチン化をうけてプロテアソームで分解されます。しかし、肺がんや頭頸部がん、食道がんなどでは、KEAP1遺伝子やNRF2 (NFE2L2)遺伝子に変異がはいり、NRF2の分解が障害される結果、恒常的にNRF2が活性化した状態になっています。(中略)近年では、NRF2活性化がんが、免疫療法に対しても抵抗性であることが明らかになったことから、現在はその原因を追究し、あらたな治療戦略の取得をめざしています。

代謝物から迫る炎症性腸疾患の新たな治療戦略

炎症性腸疾患は、発症年齢が比較的若く、一旦発症するとその後長期にわたり、寛解と再燃を繰り返しながら慢性に経過する難治性疾患で、近年患者数は増加傾向にあります。その病因としては、腸管を中心とした免疫応答や炎症制御の異常であることが明らかになりつつあります。(後略)

(上記研究内容の全文は、本橋先生の研究室HP「Motohashi Lab」よりご覧ください)

第4回ヘルステック研究会「酸化ストレスと硫黄代謝」

硫黄は生命の進化を牽引してきた元素であります。最近の研究から、生体内にこれまで知られていなかった種々の硫黄を含む生体分子(超硫黄分子と総称する)の存在がわかってきました。超硫黄分子は、抗酸化作用や抗炎症作用を有し、また、ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝を支え、細胞内の情報伝達にも利用されています。こうした超硫黄分子の生体における役割と我々の健康との関係を紹介します。

新興硫黄生物学が拓く生命原理変革~硫黄生物学~

本橋先生が領域代表をされている「新興硫黄生物学が拓く生命原理変革(硫黄生物学)」のサイトから先生のメッセージを紹介いたします。

「硫黄、といえば、温泉、火山、下水の硫化水素の臭いを思い浮かべ、硫黄酸化物による大気汚染や酸性雨を思い浮かべ、ややもすればネガティブなイメージを持たれている元素かもしれません。しかし、近年の分析機器の進歩と新しい技術開発により、硫黄こそ、実は私達ヒトを含む全ての生命にとって根源的な役割を担っている元素であることがわかってきました。

硫黄の大きな特徴は、直鎖状に連結することができる、すなわち、カテネーションを形成できることです。たとえば、炭素原子もカテネーションを形成し、それにより有機物の多様性が生じるわけですが、それには、水素やその他の官能基が必要です。それに対して、硫黄は単独でカテネーションを形成できる唯一の元素です。硫黄カテネーションは、求核性と求電子性を併せ持つユニークな性質を示します。そこで、私達は、硫黄カテネーションを有する分子を、超硫黄分子と総称することにしました。

超硫黄分子は、従来の生物学・生化学からはすっぽりと欠落しています。その理由は、超硫黄分子が検出されず、観測されなかったからです。超硫黄分子は、化学的な反応性の高さゆえに不安定で、しかも、硫黄カテネーションの長さもまちまち、すなわち不均一です。再現性がよい分析を行うためには、その対象は安定で均一なものでなくてはなりません。そのため、これまでの生化学実験では、生体試料に過度な還元変性処理をすることで、人工的に安定で均一な試料に変換して計測を行ってきました。この結果、生体内に豊富に存在している硫黄カテネーションがすっかり削り込まれてしまい、多くの超硫黄分子が見落とされてしまったのです。

みなさんがいま調べているその細胞、そのタンパク質、その代謝物の中に、きっと超硫黄分子がたくさん入っているはずです。「硫黄生物学」領域では、みなさんに超硫黄分子の存在を実感していただけるよう、超硫黄分子の計測技術の普及を第一の目標に掲げています。そして、超硫黄分子を考慮した新しい生命科学の創出、超硫黄分子を利用したSDGsへの貢献を目指しています。これまで見えなかった超硫黄分子が見えるようになったら、生命科学にはどのような視界が開けるのか、この領域研究の展開にどうぞご期待ください。そして、硫黄生物学の「硫黄生物学」領域へのご参加、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。」

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