7月23日開催の第3回HT研究会は、南後恵理子 教授による「次世代放射光NanoTerasuが拓く創薬研究」です!

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第3回HT研究会は、東北大学 多元物質科学研究所 有機・生命科学研究部門
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター、特定国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学研究センター チームリーダー、南後 恵理子 教授 「次世代放射光NanoTerasuが拓く創薬研究」です。

2016年12月、米国の科学雑誌『Science』に発表されたタンパク質の機能メカニズム解明にブレークスルーをもたらす研究成果は、X線自由電子レーザー施設SACLAで膜タンパク質の反応途中の構造変化を捉えたものでした。

この論文の筆頭著者は、当時、理研 放射光科学総合研究センター(RSC)SACLA利用技術開拓グループの研究員であった南後 恵理子先生です。「最先端の研究現場こそ、泥くさく、何もないところからつくり上げていく必要があります。それが面白いのです」。育児と研究を両立させながら大きな成果を上げられた当時の素顔に迫った、非常に興味深いインタビュー記事が理化学研究所ホームページにありましたので抜粋し、紹介いたします。

SACLAで膜タンパク質が構造変化する過程を見た研究者

(以下、理化学研究所で活躍する若手研究者・技術者を紹介した「若手研究員の素顔」より抜粋)
3歳のときにピアノを弾き始めた南後研究員。「14歳のときに出た大きな発表会で自分には才能がないことを自覚して、ピアニストへの道を諦めました」。

そのころ、親族の一人が難病を発症。「良い治療法がなく、長い入院生活を送ることになりました。私に何かできることはないかと考え、創薬に関わる研究者になろうと思いました」。東京工業大学に進学し、抗生物質などの研究をしている天然物化学の研究室に。「抗生物質の生合成に関わるタンパク質を調べることになりました。タンパク質の機能を知るには構造を調べる必要があります。ほかの研究室に行き、X線結晶構造解析を学んだりしました」

学位を取り、東工大や理研RSCで研究を進めた。「タンパク質は構造を変化させながら機能を発揮しますが、従来の手法では反応が起こる前と終わった後の構造しか分かりません。反応途中の構造変化を見たいと、いろいろな手法で実験しましたが、満足のいく成果は得られませんでした」
(後略。続きは理化学研究所HPよりご覧ください)

タンパク質の構造変化を動画としてとらえる

TOHOKU University Researcher in Focusでは、東北大学の注目すべき研究者のこれまでの研究活動や最新の情報を紹介しています。Vol.027では南後先生の紹介がされています。(以下、「TOHOKU University Researcher in Focus」より引用)

SPring-8(スプリング・エイト)という名前を聞いたことはあるでしょうか。犯行の物証となる物質を特定した犯罪捜査で使用されたことで有名になったこともありました。SPring-8というのは、放射光という電磁波を発生する巨大な装置です。

放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。その電磁波にはX線も含まれており、SPring-8は世界で最も強いX線光源です。このX線を使うと、物質の原子・分子レベルの構造を調べることができます。しかし、原子や分子の瞬間的な動きを観察するには強度が足りませんでした。

そこを補強するために、SACLAという施設が建設されました。SACLAはさらに強い強度のX線自由電子レーザーの発生を可能にし、2012年に運用を開始しました。南後さんは、SACLAが発射するX線自由電子レーザーを用いたX線結晶構造解析の研究を行ってきました。(後略。続きは東北大学サイトよりご覧ください)

薄暗いところで光を感じる仕組み

(以下、東北大学サイト「2023年 | プレスリリース・研究成果」より引用)
理化学研究所(理研)放射光科学研究センター利用技術開拓研究部門SACLA利用技術開拓グループの岩田想グループディレクター(京都大学大学院医学研究科教授)、分子動画研究チームの南後恵理子チームリーダー(東北大学多元物質科学研究所教授)、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室実験技術開発チームの登野健介チームリーダーらの国際共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)[1]を用いて、ロドプシン[2]という視覚に関わるタンパク質が光刺激によって1ピコ秒(1兆分の1秒)~100ピコ秒という超高速で変化する過程を、原子の動きまで克明に動画として捉えることに成功しました。

本研究成果は、ヒトの視覚のメカニズムの理解につながるだけでなく、創薬ターゲットとして重要なGタンパク質共役型受容体[3]の活性化機構を理解する上でも重要な知見になると期待できます。

ロドプシンは眼の網膜に存在する膜タンパク質であり、光をキャッチするためのレチナール[2]という共役アルデヒドを含んでいます。ロドプシンは、高感度で光を感受できることから、薄暗い環境において物を見る役割(暗所視)を果たします。光を受けたロドプシンは構造変化を引き起こし、それが細胞内へ信号として伝わり、最終的に”物を見る”ことができます。しかし、ロドプシン内部でのレチナールの変化の詳細は不明でした。

今回、国際共同研究グループは、ロドプシンが光で変化する様子の原子レベルでの動画撮影に成功し、視覚の初期段階におけるメカニズムを解明しました。

本研究は、科学雑誌『Nature』の掲載に先立ち、オンライン版(3月22日付:日本時間3月23日)に掲載されました。

【用語解説】
[1] X線自由電子レーザー(XFEL)
X線領域におけるレーザーのこと。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的には波長の制限はない。また、数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の超短パルスを出力する。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。

[2] ロドプシン、レチナール
レチナールは、下図の構造をした共役アルデヒドである(図は11-シス型で、6員環のC6に四つの二重結合を持つアルデヒド基が結合している)。オプシン(視物質のタンパク質部分)を作っているアミノ酸のリジン残基と反応してロドプシンとなる。ロドプシンは、二重結合を巧みに異性化させることにより、視細胞で光を感知する鍵分子である。

[3] Gタンパク質共役型受容体
細胞膜に存在する膜タンパク質で、神経伝達物質や生理活性物質などのシグナル分子を受容すると構造変化を起こし、細胞質側でGタンパク質などと相互作用することにより情報伝達を行う。

視覚の初期段階やそのメカニズムを理解する上で重要な知見

本研究成果は、視覚の初期段階やそのメカニズムを理解する上で重要な知見となります。本成果で用いられた手法は、光で反応するさまざまなタンパク質の構造変化を捉え、仕組みを明らかにすると期待できます。特に、創薬ターゲットとして重要なGタンパク質共役型受容体の活性化機構の解明に貢献することが今後期待できます。

(このプレスリリースの詳細リンクはこちら

第3回ヘルステック研究会「次世代放射光NanoTerasuが拓く創薬研究」

令和6年度から運用開始するNanoTerasuは、東北大学キャンパス内に設立された世界最高クラスの軟X線放射光施設です。

NanoTerasuの放射光を用いると、物質中の化学結合や電子の状態を詳しく知ることができることから、材料科学など様々な分野での利用が期待されています。

ライフサイエンス分野においては、薬物動態や細胞内部の可視化ツールとしての利用が可能であり、タンパク質の構造を原子レベルで明らかにすることもできることから、創薬への応用が期待されています。本講義では、NanoTerasuのライフサイエンス分野での利用を中心にご紹介します。

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