HEALTH TEC LETTER vol.4|NEWSTOPICS・山口明彦 先生 研究会レポート

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“HEALTH TEC LETTER”とは?

東北大学ヘルステックカレッジの活動内容や幸福な健康社会の実現に向けて行われている東北大学の研究やさまざまな取り組みについて、最新情報をお届けします。

東北大学 ヘルステックTOPICS

1. 全国8地域からなる大規模認知症コホート研究で社会的孤立と脳萎縮および白質病変との関連を報告

社会的孤立による健康への影響が問題視されています。これまでに疫学調査において、社会的孤立により認知症の発症リスクが上昇することが報告されていますが、社会的孤立が脳萎縮等の脳の構造に及ぼす影響については十分に解明されていませんでした。

九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、同大学 心身医学の平林直樹講師らおよび弘前大学、岩手医科大学、金沢大学、慶應義塾大学、松江医療センター、愛媛大学、熊本大学、東北大学の共同研究グループは、健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:JPSC-AD研究に参加した65歳以上の認知症を有しない8,896名の脳MRI検査や健診データを用いて、交流頻度と脳容積との関連を解析しました。

交流頻度は、「同居していない親族や友人などとどの程度交流 (行き来や電話など)がありますか?」という質問によって毎日、週数回、月数回、ほとんどなしに分類しました。その結果、交流頻度の低下に伴い脳全体の容積や認知機能に関連する脳容積(側頭葉、後頭葉、帯状回、海馬、扁桃体)が有意に低下し、白質病変容積が有意に上昇しました(図)。さらに、それらの関連に抑うつ症状が15~29%関与しました。

本研究は横断研究であるため、因果関係を論じることには限界がありますが、脳萎縮や認知症発症を予防する上で、他者との交流頻度を増やし、社会的孤立を防ぐことが重要であることが示唆されます。

今後は、前向き追跡調査の成績を用いて、社会的孤立と脳の構造変化及び認知症発症との関連を詳細に検討する予定です。

本研究成果は、2023年7月12日に国際学術誌Neurologyオンライン版に掲載され、米国神経学会からプレスリリースされました。(2023年7月21日:スマート・エイジング学際重点研究センター 教授 瀧 靖之)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

2. 歯数や歯周病と海馬の萎縮速度との関連を解明 重度の歯周病の歯を残すことは海馬の萎縮速度を速める可能性あり

歯の喪失や歯周病がアルツハイマー病のリスクを高める可能性が指摘されてきましたが、歯周病の歯を残すことと歯を失うことのどちらがアルツハイマー病の初期に生じる海馬の萎縮と関連するかは不明でした。

東北大学病院口腔機能回復科および大学院歯学研究科加齢歯科学分野の山口哲史講師らの研究グループは、コホート研究である大迫研究(おおはさまけんきゅう)のMRI健診参加者を対象に、歯数や歯周病と4年間の海馬の萎縮速度との関連を解析しました。その結果、軽度の歯周病では歯が少ないほど、重度の歯周病では歯が多いほど、左海馬の萎縮が速いことを明らかにしました。

この結果は、単に歯を多く残すだけでなく、健康な歯を残すことが重要であることを示しています。45歳以上の過半数が歯周病を有している日本において、重度の歯周病の歯を残すことが海馬の萎縮を速めるという本研究の結果は、認知症予防の考え方に大きな影響を与える可能性があり、今後はより大規模な研究によって検証を進める必要があります。

本研究成果は、2023年7月5日午後4時(現地時間、日本時間7月6日午前5時)米国神経学会学会誌Neurology (オンライン版)に掲載されました。(2023年7月6日:大学院歯学研究科加齢歯科学分野/病院口腔機能回復科 講師 山口哲史)

詳細はこちらか(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

3. オンラインとオフラインの並行学習メカニズム 神経-グリア超回路による記憶制御機構の解明

学習過程にはトレーニング中に即座に上達するオンライン学習と、休憩中や翌日にかけてじわじわと身につくオフライン学習があります。東北大学大学院生命科学研究科の金谷哲平研究員(研究当時、日本学術振興会特別研究員)、松井広教授(大学院医学系研究科兼任)らのグループは、この二つの学習過程が独立・並行して成立することを示しました。

脳内には情報処理を担う神経細胞に加えて、ほぼ同じ容積を占めるグリア細胞があります。マウスのグリア細胞からのグルタミン酸放出を促進・抑制すると、オンライン学習は亢進・阻害されました。一方、訓練後の休憩期間のオフライン学習は、オンライン学習の成果とは関係なく、独立して進行しました。このように、グリア細胞は記憶のしやすさの一面に影響を与えることが解明されました。

本成果は、記憶形成過程におけるグリア細胞の機能を理解することで、効果的な学習やリハビリの手法を開発することに貢献すると期待されます。

本研究成果は、2023年6月27日付でGlia誌にオンライン掲載されました。(2023年6月27日:生命科学研究科 教授 松井 広)

詳細はこちらから(東北大学WEBサイト該当記事へ移動します)

第4回 ヘルステック研究会 レポート

第4回のHTC研究会は、東北大学 医学系研究科 大学院非常勤講師、株式会社FingerVision 取締役、山口 明彦 先生による 「視覚に基づく触覚センサ FingerVisionおよびロボット・医療アプリケーション」です。(以下講義より引用)

これまでの研究

まずは私がこれまでやってきた研究について紹介します。私は京都大学を学部で卒業した後、奈良先端大学で博士号を取得して勤務し、その後アメリカのカーネギーメロン大学へと移り、ロボットマニュピレーションやロボットラーニングの研究をやってきました。

ロボットの運動学習・機械学習の研究で、マニュピレーション技術を食品などの対象物に適応してきましたが、その過程で「人間の触覚・手の感覚」が重要ということに行きつき、開発をはじめました。

最近の研究

最近はロボットハンドの開発をしています。機械学習・触覚センシングといったツールを使ってマニュピレーション、ロボットが人間の変わりになりうる研究開発をしています。

UFOキャッチャーをご存知ですか? やったことがある人は想像できると思いますが、アームで物を掴むのは難易度が高いと理解いただけると思います。

ではなぜ難易度が高くなるのでしょうか?それは自分の手ではないものを使って物を掴むと、身体性が異なるからです。もう一つは触覚のフィードバックがないためで、クレーンで掴んだ時に、ちゃんと掴めている感覚が自分に返ってこないからです。

つまり、「掴む」という動作は触覚が使えるからうまく行えるのではないかと思います。

  • Task1: pickup
  • task2: grasp without looking
  • tasuk3: crane game

ロボット開発の目的と具体例

ロボットを何のために開発しているかというと、人間がやっている作業、特に工場での自動化であったり、食品工場の人手不足を解消するための自動化であったりなど産業応用をするにあたって、人間が持っているコンポーネント・身体能力というものを、何かしらの方法で機械的に代替していくのが目的です。

具体的に、脳については、深層学習というのがここ10年近くホットな話題としてのぼっていますが、ニューロネットワークやCPUなどで置き換えることが可能です。

目については、性能の良いカメラ、特に3次元カメラは人間よりも奥行きに関しては精度が高いものも出てきています。

腕については、産業用のロボットアームがよくできています。人間の腕とロボットは動作原理が違うので特性の違いは当然あります。人間の腕は俊敏に動くことができますが、ロボットアームはモーターを使って動かす関係上なかなか俊敏な動きはしにくかったりします。しかし車などを持ち上げる高馬力なロボットアームのような形で人間の能力とトントンだったり、一部の能力は上回ったりしており、腕についてはロボットの方がいい場合があります。

手については、人間の手は高機能で、腕に比べて自由度がたくさんあります。その自由度を一つ一つ置き換えていくと金額が途方もなく高くなってしまいます。価格帯でいうと、腕一本200-300万くらいです。人間の腕と同程度の自由度をロボットアームで実現しようとしたら4000万くらいします。

そのため手の置き換えというのはあまり進んでいなかったり、実際の現場で求められるようなものが、十分なスペック・コスト面で出てきていなかったりします。

指機能ロボット化の難しさ

さらに難しい状況にあるのが指です。人間は何か物体を操作するときに、視覚と触覚のセンサを使いますが、視覚はいいコンポーネントがあるのに対し、触覚はなかなか産業応用に至るセンサが開発されていないのが実態です。

実際に触覚センサはないのかというと、そんなことはなく数十年という歴史で開発されています。現在販売されているセンサは、空気圧を利用したり、磁力を使ったり、電解質の液体で満たされたものを使ったりなど、人間の指に近い状態の触覚センサがいろいろあります。

では何が問題かというと、想定外の圧力がかかったときの壊れやすさです。指の触覚センサが一本200万円するので5本指で1000万円、シャドーハンドという人間の手を模した自由度の大きい手の場合、ひとつ4000万円くらいするため、トータルで5000万円になってしまいます。そのため経済面から産業応用しようとはなりません。

このように触覚センサはいろいろと開発されてきてはいるのですが、コストや耐久性が見合わなかったり、そもそも性能がよくなかったりという問題があって、なかなか産業応用まで至っていないのが現状です。今回はフィンガービジョンというカメラを使った触覚センサについて詳しくお話しします。

FingerVisionについて

  • 視覚を使った触覚センサについて
  • 視覚を使った触覚センサの具体例
  • FingerVisionの基本的な原理
  • FingerVisionの利点・欠点
  • FingerVisionの力の推定原理
  • ロボットの物体操作における滑りについて
  • FingerVisionセンサのマルチモーダル
  • 手の中で持ちかえをする仕組み
  • 触覚センサを使っておにぎりを運びソーティングし正面に並べる
  • FingerVisionを多重動ハンドに搭載しよう
  • FingerVisionの産業応用について

その他の研究について

  • 非ロボットアプリケーション
  • 眼圧計測デバイス

(続きはHTCのご参加による見逃し配信でご覧いただけます。)

第5回ヘルステック研究会は8月25日開催

次回、第5回ヘルステック研究会は、東北大学加齢医学研究所 脳科学研究部門、東北大学大学院 情報科学研究科 人間社会情報科学専攻、東北大学大学院 医学系研究科 医科学専攻 加齢脳科学講座、細田 千尋 准教授による「脳科学と情報科学から考えるウェルビーイングな学び」です。

“Winners never quit and quitters never win”
これは、アメリカのスポーツやビジネスの信条だとされています(Wrosch, Scheier, Carver, & Schulz, 2003a)。 日本だけでなく、世界的にも、逆境の中でも諦めずに情熱をもって粘り強く目標を追求することが美徳とされています(Eskreis-Winkler, Gross, & Duckworth, 2016)。また、何かに没頭し(engagement)成し遂げること(Achievement)が持続的な幸福の上で重要であるとしています。

学ぶということにおいて、没頭し、成し遂げる、という遂行機能(一般的にはやり抜く力と言われるもの)の個人差を決定する要因の解明および、wellbeingにつながる学びとはどのようなものか、について生涯学習の観点からの最先端の脳科学に基づく研究についてご紹介します。

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